尾木ママが講演会で語ってくれたこと

  • 全国

2024.09.20

未来を生き抜くチカラ~思春期の「自立」と「進路」について考える~

8月31日(土)、東京本校において“尾木ママ”の愛称でおなじみの尾木直樹さんのN学特別講座が行われました。NHK学園アドバイザーでもある尾木ママは毎年NHK学園に来校して、生徒や保護者に素晴らしいお話を聞かせてくれています。今年はNHK学園在校生の保護者と、入学を検討している生徒の保護者を対象にして、親の関心が高いテーマについてじっくりお話いただく会を開催。オンライン配信も同時に行い、全国から多くの保護者が参加しました。

 

ポストコロナと子どもたちの現状

集まった参加者の大きな拍手の中登壇した尾木ママ。まずは明るい笑顔で会場のみなさんにあいさつしてくれました。「晴れてよかったね~!!」の第一声に、緊張の面持ちで登場を待っていた参加者たちも肩の力が抜け、一気に雰囲気が和んだところで講演会の始まりです。

はじめに、現代の子どもたちを取り巻く環境についてのお話です。
3年目に突入して今なお終わりの見えないロシアのウクライナ侵攻、イスラエルによるガザ侵攻を中心に不安定な中東情勢、地球温暖化は深刻さを増し「沸騰化」とも表現されるようになってきました。こうした環境変化による各地での災害、そして子どもたちの身近にあるSNSも大きな問題となっています。

尾木ママは毎年全国の小・中・高校、そして特別支援学校を数多く訪れていますが、先日、小学校3年生の教室で生徒と一緒に給食を食べる機会があったそうです。
食事中、黙々と給食を食べて、ひと言も発しない生徒たちの姿に尾木ママはびっくり。担任の先生に尋ねたところ、コロナ禍に小学校へ入学した生徒たちは、「黙食」が当たり前。通常は生徒の様子を教室の前で見守りながら一緒に給食を食べる担任も、コロナ禍においては教室の最後列で、生徒の背中を見ながら食事をするよう文部科学省から指導がありました。保護者世代がイメージする机を囲み、和気あいあいと給食を食べる日常はなかったのです。すべてがこのように「ないない尽くし」。行事や授業などさまざまなものがなくなったり、制限がかかったり、特殊な学校生活を余儀なくされてきました。そのストレスは計り知れないもので、高校生の30%に中等度のうつ症状がみられるというデータがあります。
他者とのふれあいや会話によって人間形成される成長期に交流を制限されたことで、5歳児で5.9か月のコミュニケーション能力の遅れがみられるという調査結果もあるそうです。

そして、SNS時代と呼ばれる現代に広まる「いい子症候群」の問題の根深さについても語ってくれました。
『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』(東洋経済新報社)という書籍が話題になりました。保護者世代ならみんなの前でほめられるのは誇らしいこと。「ほめないで」という理由があったとすれば、「恥ずかしいから」だったのではないでしょうか。今の子どもたちが人前でほめられたくない理由は「目立ちたくないから」。ほめられたことで、SNS上で悪口を言われたり、いじめが始まったり、という事態をおそれているのです。

 

思春期と自立

『親子共依存』(ポプラ社)という著書もある尾木ママは、反抗期がない友だちのような親子関係に警鐘を鳴らします。
昔は傍目にもわかりやすかった反抗期ですが、今は表面化した反抗期がない子どもたちが男子で42%、女子で35%もいるそうです。
反抗期はどの子にもあります。暴力的な行為はなくとも、親の意見に不満を表したり、疑問を感じたり、というちょっとしたことも反抗期の反応の一種で「思春期」として正常な現象です。思春期の脳は急速に発達します。12歳~24、5歳がその発達の時期で、12歳では実にそれまでの100倍まで脳の回転力が増すと言われおり、親の想像を超える速度で物事をとらえます。あまりのスピードで対抗するのは無理です。
思春期の子どもへの接し方について悩む保護者は多いですが、正面から受け止めようとするのではなく、「深追いしないこと」「心配しすぎないこと」が重要です。

自立には種類があります。
①経済的自立
②精神的自立
③社会的自立
④性的自立

中学2年生男子で「母親と一緒に入浴している」という回答はなんと21%。尾木ママは子どもを全員東大に入れたというお母さんが話していた「入浴後に親が子どもの髪をドライヤーで乾かす間、子どもは英単語帳を開いて勉強していた」というエピソードを例に、子の親離れはもちろんのこと「親が子離れをすること」の大切さを伝えてくれました。

 

子ども新時代がやってきた

保護者世代はIQ(=偏差値を中心とした学力)で評価される時代を生きてきましたが、コンピューターやAIの登場により状況は一変しました。膨大な情報処理能力や情報の蓄積において人間はAIにかないません。AI時代に求められることは、HQ(人間力・人間性)なのです。経験から吸収し、学んでいくのが本当の意味での学力。AIと張り合うのではなく、AIを使いこなす力、想像する力、発想する力が求められているのだと、尾木ママは語ります。
STEM教育(Science、Technology、Engineering、Mathematicsを横断的に学ぶ教育)が叫ばれてきましたが、今、STEM教育からSTEAM教育へと変化してきています。STEAM教育のAはArtの頭文字。上記4分野にArt(芸術・リベラルアーツ)分野を加えた横断的教育を指します。ArtはAIの苦手分野です。人間の感性を存分に発揮できる芸術分野の重要性が高まっています。

 

OECD Education 2030

OECD Education 2030プロジェクトについてもご紹介いただきました。OECD(経済協力開発機構)が2015年に立ち上げた「OECD Future of Education and Skills 2030 project(教育とスキルの未来2030プロジェクト)」のことです。複雑で予測が困難な2030年の世界を生き抜くために、生徒たちに必要な力は何か、そしてそれをどのように育成するのかといったことを提言しました。
尾木ママも、この提言が発表されたときは、当たり前のことを言っているな、という印象だったそうです。しかし、その後、コロナ禍を経て、その提言の重要性が際立つ状況になりました。

この提言の核は3つ。
1.新しい価値を創出する力
頭のいい人が一人で考えて創り出すのではなく、協働で、いろいろな力を結集して新しい価値を創出することができる力が求められます。
2.バランス調整能力
イスラエルのガザ地区への侵攻、ロシアのウクライナ侵攻が続く中、国連は全く役割を果たせていません。戦争を核の力で終わらせようとするのではなく、平和的に解決する調整能力こそが今求められています。
3.自己客観視能力
これは個人の力。文字通り自分を客観視する力です。

この夏はパリオリンピックもありましたが、尾木ママがこれまでに自己客観視能力が特に高いと感じたのは、元体操選手の内村航平さんだそうです。試合が終わった直後でも、「ここを修正しないといけない」ということがコメントできるところに、能力の高さを感じたと言います。

最後に尾木ママから、これからは「子どもセンタード」の時代というお話がありました。
これからは、大人が子どもに教えるのではなく、子どもと大人がパートナーシップを結ぶ時代。「子どもファースト」はもう古い。子どもを真ん中にして、学校や保護者、地域が成長を見守って育んでいく社会の中で、子どもを一人前の人間として尊重し、接していくことが大切です。

ルネサンスはペストの大流行を受けて生まれました。ポストコロナの現代も価値観の変革と文化発展の可能性を秘めているのです。これからどんな時代になるのか、楽しみです。そんなことばで尾木ママのお話は締めくくられました。

 

 

尾木ママが保護者のお悩みにお答え!

保護者のみなさまからは、お申込みの際に尾木ママへの質問をいただいていました。その中から、いくつかの質問に答えていただきました。

<質問その1>
「やりたいことがみつからずスマホをみてばかり。どうしたら好きなことがみつかりますか。」
多くの保護者からの悩みとして寄せられた質問です。

尾木ママは「保護者のみなさんは高校生の時にやりたいことが決まっていましたか?」と問いかけました。続いて、決して順風満帆ではなかったご自分の高校時代の経験を話してくれました。
「よく話を聞くと、好きなものが見えてくると思います。本人が好きなことを今は見つけられていなくても、小さいころからそばで見守ってきた保護者はその子が何が好きか、何が得意か見えているのではないでしょうか。」と答えてくれました。
尾木さんの答えを聞いて「とても腑に落ちた」との声もオンライン視聴者から寄せられていました。

<質問その2>
「パソコンが得意だがその知識や技術を悪用してしまわないか心配で今は使用を制限している一方で、子の好きな事を封じているままでよいのか悩みます。」という質問です。

尾木ママは「制限するのではなく方向づけをするといい」と教えてくれました。「押さえつけるのではなく、能力を発揮できる方向へ向かうように導いたらどうでしょう。パソコンのスキルや能力を活かせる場は多く、デジタルに関するコンテストなどさまざまな機会が提供されています。知識やノウハウを世の中のために使う方向、デジタル・シチズンシップを育てる方向に導いてほしいですね。」との言葉に、多くの保護者もうなずいていました。

<質問その3>
「高校生の進路選択について、親はどこまで介入すべきでしょうか。」

尾木ママは「コロナ禍を乗り越えてきた子どもたちに親世代が言えることなんてないんです。」とまずひと言。「子どもたちの情報収集能力は親を超えています。講演の中でも伝えたように子どもとパートナーシップをもって、一緒に調べて、一緒に考えること。一人前として扱うこと。これが大切。『あなたはどう思うの?』という問いかけが重要です。」尾木ママの言葉が保護者へ静かに響きます。
「大切なのは決定は本人にさせること。どの道に進んでも嫌なことは必ず起こります。その時に、他者に従うとそのことを言い訳にしてしまいますが、自分で決めたことなら納得して進むことができるのです。」

そんなお話で講演会は締めくくられました。
あっという間の90分。
講演会当日は、関東に接近していた台風10号の影響が心配されていましたが、当日の東京都国立市は朝から夕方まで雨は降ることはありませんでした。
太陽のような明るさとあたたかい言葉で、台風を吹き飛ばしてくれた尾木ママ、熱い講演をありがとうございました!

通信制高校への入学を検討中のみなさんに向けて、尾木ママがどうしても伝えたいメッセージを送ってくれました。ぜひ、下記からご覧ください!!