11/1 ❝福岡ハカセ❞がN学へ!④『特別講座』概要(第3回)
- 東京本校
2019.11.18
福岡伸一先生『特別講座』③
“福岡ハカセ”がN学へ! ③ 『特別講座』の概要(第3回)
11月1日(金)に実施しました分子生物学者の福岡伸一さんによる『N学特別講座』。お話の内容を3回に分け、お伝えしています。3回目の今回が最終回になります。文中の“私”は、福岡さんご自身を指します。
“福岡ハカセ”の生命を捉えなおす ~動的平衡の視点から~
第3回 フェルメールの作品群に“動的平衡を見る”
さて、レーウェンフックとのつながりで私が興味を持った画家のフェルメールですが、ちょうど私が若い時、ニューヨークで研究生活を送っていた時に、富豪が設立した美術館(フリック・コレクション)で鑑賞することができました。フェルメールの作品は、ゴッホやピカソのような画家のエゴがあからさまなものでなく、写真的で科学的マインドが感じられます。その生涯に残した作品は37点といわれています。この37という数字は素数で、それも科学者である私の心をくすぐりました。彼の時代、カメラ・オブスキュラという、すりガラスに風景を映し出す針あな写真機があって、フェルメールはそれを利用していたのではないか、そして、彼にカメラ・オブスキュラのことを教えたのは、レーウェンフックだったのではないか、と私は考えています。
フェルメールのオタクとなった私は、ヴァーチャルでのフェルメールを実施するまでになってしまいました。世界各地に散在するオリジナルのフェルメール作品すべてのデジタル・データを入手、コンピューターのなかで修復・再現したものをアウトプットし、オリジナル同様の額に入れて、制作年代順に並べてみる、という企画でした。実際にやってみると、絵と絵のあいだの流れの中に、フェルメールの人生の動的平衡が見えてきました。例えば、「これは、フェルメールの作品かどうか疑わしい」といわれる作品も、流れの中で前後の作品と見比べてみると、手の描き方の共通性などから、やはり彼の作品だろうと確信できることもあるわけです。この私が企画したフェルメールの展覧会をニューヨークでは、アート街として知られるソーホーで公開したのですが、そのことで、ニューヨーク・タイムズからも私が“フェルメール・オタク”であると認知されました。さらには、フェルメールの故郷で「真珠の耳飾りの少女」を所蔵するオランダのマウリッツハイス美術館は、なんと私を主人公にプロモーションビデオを製作するまでになり、いわば、本家本元がお墨付きをくれたわけです。最初に先方から私に連絡がきたときには、好き勝手なことをしていることで、何か怒られるのかと、びくびくしましたが…。
これは本気の寄り道がくれた楽しみです。
いろいろお話しましたが、「未知のものを発見する可能性が、自分にあると信じること」が、私の持続力です。 (終)
今回、貴重なお話をいただきました福岡伸一さんに、厚くお礼申し上げます。