通信制高校からの大学進学~変化する大学入試を踏まえて~
- 通信制高校からの進学・就職
2024.08.20
学校選びの際に、学費や教育内容に加えて卒業後の進路について気にするのは当然のことです。しかし、通信制高校を探している方から受ける質問の中には、「大学進学はめざせますか?」といった特有のものがあります。そこには「通信制高校からの大学進学は難しい」という前提があるようです。
通信制高校からの大学進学の実態について解説します。
全日制・定時制・通信制の進学率
まずは全日制、定時制、通信制の高校の進学率を見てみましょう。

参考:文部科学省令和5年度教育基本調査
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/1268046.htm
上の表を見てください。全日制・定時制・通信制という高校の形態別の進路状況です。全日制高校では6割以上の進学率であるのに対して、通信制高校の大学への進学率は20%ちょっと。定時制高校と比較すると多いですが、全日制高校との間には大学進学率に大きな差があります。
大学入試の際に、通信制高校の生徒であることが不利になるということは一切ありません。一般入試は学力を問うために行われるのですから、受験者が通信制高校の生徒であることや全日制高校の生徒であることが合否の判断の材料になることは当然ありません。指定校推薦は学校により持っている枠に差がありますが、多くの大学で行われている総合型選抜や公募制一般推薦の場合には、大学の求める条件を満たしていれば、どの高校の生徒も出願できます。つまり、受験機会には、在籍している高校の種類による大きな差があるわけではないのです。
通信制高校と全日制高校の大学進学率の差はなぜ生じる?
では、通信制高校と全日制高校の進学率に差が生じる原因はどこにあるのでしょうか。これには以下のような理由が考えられます。
1. 通信制高校に通う生徒が多様だから
通信制高校には、全日制高校と比較して、多様な生徒が集まってきます。身体的・心理的な理由で、全日制高校に通うことが難しいため通信制高校を選択した生徒、自分のやりたいことと学業の両立のために通っている生徒、仕事を持ちながら高校卒業資格を得ようと勉強している生徒、などさまざまです。すでに仕事をしている生徒や夢との両立を目指す生徒は、まずは高校卒業が一区切り、という場合も少なくありません。また、心身の負担軽減のために通信制高校に通っている生徒は、高校の勉強と進学準備を同時に行うのは負担なので、まずは高校卒業、その後、調子を調えてから進学準備を行うというケースが多いです。こうした多様な生徒の受け皿である通信制高校の特性が大きく影響していると考えられます。
2. 多様な生徒が集まる中で自分の意志を持って準備する必要があるから
上で述べたようにさまざまな生徒が集まる中で、大学進学をめざして準備を進めるのには、本人のやる気と主体性が必要です。通信制高校は入学選抜の際に学力選抜を行わない学校がほとんどですが、全日制高校の場合には学力選抜により、学力が同程度の生徒が揃います。すると、おのずと志望先も似通ってくる可能性が高いです。同級生が同じ目標に向かって努力しているため、主体性を持って受験勉強に取り組んでいる生徒以外も周囲の影響を受けて、受験を意識するようになったり、モチベーション維持につながることがあるでしょう。
3. 充分な進路指導の機会を持たない通信制高校もあるから
これは通信制高校に限ったことではありませんが、中には、「高校卒業資格を得ること」を最終目標に置いている高校もあります。そうした学校の場合、学校からの進学サポートは多くを望めません。入学の時点で大学進学をめざしているならば、進路指導に重きを置き、しっかりとした進路指導体制を持つ通信制高校を選ぶ必要があります。
大事なのは、自分自身の目的意識をしっかり持って取り組むこと、周囲に流されないことです。
上で、全日制高校では同級生から刺激を受けたり、モチベーション維持につながる可能性が高いということをお伝えしました。「みんながやっているから私も頑張ろう」とモチベーションにつながる場合もありますが、裏を返せば、本来もっと上を狙える生徒も全体のレベルや志望に合わせて底力を発揮する機会を持たずに進学してしまう場合もあると言えます。
主体的に考え、行動することができれば、通信制高校ほど可能性を広げられるところはない、と言えます。そして、大学入試の進む方向性は、通信制高校の生徒にとって追い風となっています。
大きく変化した大学入試~総合型選抜・推薦入試の拡大の理由~
大学入試も大きく変化してきています。かつては、大学入試イコール「筆記試験での獲得点数による選抜」でした。推薦入試を実施していたのは私立大学の一部、国公立ではごくわずかな大学だけで、募集人数も限られたものでした。
現在、私立大学入学者の半数以上は総合型選抜や推薦入試になりました。国公立大学にも推薦入試が広がってきています。大学入試は、多様なメニューの中から自分に合った方法やしくみを選んで挑戦する形式に様変わりしています。
なぜこれほどまでに総合型選抜や推薦入学が拡大してきたのでしょうか。
これには、大学側の「入学後に伸びる学生を獲得したい」「学部内を活性化させたい」という意図が反映しています。
筆記試験による学力重視の入試では、入学希望者の入学時点での教科学力を図ることはできますが、その学問分野への思いややる気、そして、入学後の伸びしろを図ることはできません。むしろ入試までの段階で燃え尽きてしまい、いざ入学したときには気力が乏しくなってしまっている学生や、教科学力は身についていても研究や探究のための学力(思考力や想像力、探究心など)が伴っていない学生、偏差値を基準に入学してミスマッチ感を抱えた学生などが十分な成果を挙げられない、場合によっては中途退学してしまうといった問題が発生していました。
総合型選抜や推薦入試では、志望書や小論文、面接やグループディスカッションといった選考過程において、教科学力以上に、その学部分野に対しての思いや情熱、研究に必要な思考力や想像力、探究心を備えているかが図られます。「熱意や思考力のある学生が教科学力のある学生とともに学ぶことでお互いに刺激し合い学部が活性化していく」―大学側はそんな相乗効果を期待して総合型選抜や推薦入試を行っているのです。
通信制高校と総合型選抜・推薦入試は好相性
そして、総合型選抜や推薦入試と通信制高校はとても相性がいい、ということをお伝えしておきます。
上で述べたように、総合型選抜や推薦入試で求められるのは教科学力ではありません。もちろん、基礎的な教科学力や自分の考えを表現する表現力・文章力は必要ですが、志望先への「本気度」が示せることが最大の評価ポイントなわけです。
通信制高校の生徒は、全日制高校の生徒と比べて学校に拘束される時間を各段に少なくすることが可能なため、自分の自由にできる時間が多くあります。実際に、NHK学園にも、「教員になりたいから、学習が遅れている生徒を指導する場でアルバイトをしている」「自分の目指す分野のコンテストにエントリーして経験を積んでいる」など自分の将来の夢に向けて、今できる努力を続けている生徒がたくさんいます。
同じようにその学問分野に情熱を持っていたとしても、実体験をもとに、その分野の抱える問題点も知ったうえで、それでも学びたいと訴える学生と、本やネット、そして他人から聞いた話をもとにその分野への情熱を語る学生では、どちらの学生に期待を寄せるでしょうか。
しかし、高校の先生にとっては総合型選抜は苦労が多い入試です。一般入試でしたら、模試の偏差値把握により合否判定もしやすいですし、試験でどれだけいい点数が取れるかにかかっているので、生徒自身の努力がものを言います。一方、総合型選抜は大学側の合格基準を正確に把握するのは難しく、指導には多大な労力がかかります。そのうえ、複数の大学に挑戦する一般選抜と異なり、総合型選抜では1校しか受験しない生徒も多いため、合格実績も1件止まり。合格実績を呼び水にして入学者数を増やしたい学校にとっては、「労多くして益少なし」と映るでしょう。
指定校推薦に大学が求めること
推薦入試には、公募制一般推薦のほかに、指定校推薦という形式があります。大学が定めた指定校の生徒のみが出願することができる制度です。募集枠は1つの高校から1~3人程度が多く、出願条件も厳しいので、それをクリアして校内選考を通過することが必要になります。一般的に重要視されるのは評定平均です。普段の学校での学習にしっかり取り組むことが重要です。
指定校推薦で入学してくる学生に大学が求めているのは、コツコツと努力を続けることができる学生、学業を投げ出さない学生です。先に、一般入試で燃え尽き症候群やミスマッチなどで中途退学してしまうことが問題になっていたとお伝えしました。中途退学する生徒が増えては、大学の教育的、学術的観点から見ても、財政面から見てもマイナスです。指定校推薦の生徒には、大学4年間を全うしてもらいたいというのが大学側の強い願いなのです。
また、学生を送り出す側の高校にとっても、推薦した生徒が途中で休学や退学をしてしまうようでは、次年度以降の推薦枠を減らされてしまう可能性があるため、やはりしっかりとやり遂げてくれるであろう生徒を推薦する必要があります。
通信制高校の学習の中で、最も比重が大きく、地道な学習が必要なのはレポート課題への取り組みです。通信制高校においての指定校推薦の場合は、きちんとレポートに取り組み確実に提出すること、そしてコンスタントなスクーリングへの出席が重視されると考えるといいでしょう。
一般入試も変化している
一般選抜も変化しています。以前は奇問難問が出題され、高校教育にも悪影響を与えていると言われましたが、1990年に開始した大学入試センター試験では、良質な問題を通じて高校での基礎的な学習達成度を測ることが重視されるようになりました。こうした方向性は、現在の大学入学共通テストにも引き継がれています。そして学習指導要領の変化により、基礎学力に加えて情報活用力、高い理解力などが求められる出題傾向となっているのです。
大学合格はゴールへの入り口
これまでお伝えしてきたように、大学入試は様変わりしています。
今や大学は、多彩な入学選抜メニューの中から自分に合った方法やしくみを選んで受験する時代です。教科学力を測る筆記試験による一般選抜だけに標準を合わせて受験に臨むことは、チャンスを限定してしまうことにつながります。
これまでは「教科の学力・知識を身につけた人」が合格を勝ち得ていた大学入試が、さまざまなタイプの人に門戸を開いたとも言えます。理解力がすぐれている人もいれば、時間はかかっても深い洞察を与えてくれる人、多くの人をまとめるのが上手な人…多様な人が協働して動かしていく実社会をようやく反映した状況になったと言えるのではないでしょうか。
中学生、高校生のみなさんには、ぜひ、大学合格ではなく、「めざす自分の姿」をゴールに見据えて大学入試への準備をしてもらいたいと思います。「志望する大学や学部でどのような学びをしたいのか」「大学での学びを経てどのような自分になりたいのか」といった自分の心にあることを自問し、自分の目的に合った志望先を探す努力をすることが、すなわち、大学入試の準備にもつながっていくのです。
現代の全日制高校の生徒は忙しすぎます。課題やテスト、部活動に追われて、じっくり考えたり、勉強以外のことに取り組んだりする時間が持てないことが気がかりです。思春期ならではの、ゆったり、じっくり、自分と向き合う時間を持てることも、通信制高校の大きなメリットではないでしょうか。