「コミュニケーションスキル」監修者・渡辺弥生先生に聞く 思春期の子どもとの接し方

  • 不登校・心のサポート

2024.04.26

NHK学園では2024年度から主に3年次で学ぶ選択科目として「コミュニケーションスキル」を設置しました。
科目の監修をされた法政大学心理学科教授の渡辺弥生先生は、発達心理学、学校心理学がご専門です。対人関係などのスキルを身につけることによって、学校などの社会生活を円滑に営んでいくことに役立てるソーシャルスキルトレーニングについての著書も多く、たくさんの臨床経験をお持ちです。
渡辺先生にお話をお聞きしました。

――渡辺先生は、ソーシャルスキルトレーニングの指導に長年携わっていらっしゃいます。これまで高校生への指導の機会もありましたか。
渡辺先生:これまでさまざまな場所でソーシャルスキルトレーニング(以下SST)の指導をしてきました。小中学生はもちろん、たくさんの高校生とも関わってきました。

――今回、オンライン上での学習コンテンツとして「コミュニケーションスキル」を監修されるにあたり、意識されたことはありますか。
渡辺先生:これまでの経験から不登校の生徒にもぜひSSTを受けてほしい、と思っていました。SSTの強みは、不登校の原因を性格のせいにして落ち込んだり誰かのせいにしてしまうのではなく、身につければ状況を変化させることができる、自分が変わっていけるという意欲を高めることができるところです。自尊心を高め、自分の長所や伸びしろを知ることができるようになります。
一人でも学んでいけるSSTを、不登校や引きこもりの生徒さんたちにどうやって知ってもらうか、と常々考えていました。書籍などでも紹介してきましたが、「今現在、学校に来られないひとたちで対人関係に悩んでいる生徒さんにこそ、届けたい。」そんな問題意識を持っていたときに今回の「コミュニケーションスキル」のお話をいただきました。「いつでも」「どこでも」、マイペースで他人に気兼ねなく学べる動画とテキストでの学習教材があると良いのではとアイデアを温めていました。今回の「コミュニケーションスキル」の教材の内容と学びのスタイルは、私にとってぜひ挑戦してみたい内容だったのです。

 

――そうだったのですね。学習で使用する動画教材は、生徒が日常で遭遇しそうなシチュエーションがちりばめられていて、どこを改善したらどのようにコミュニケーションが変わるのかが体感できるように作られています。
渡辺先生:とてもいい動画ができました。NHK学園の先生方や生徒さんと協力して作ることができたのは感慨深いです。ぜひ、生徒のみなさんにも活用してもらいたいと思います。
「コミュニケーションスキル」の教材は、心理学でその効果が認められてきたエビデンスをもとに作られています。具体的には、<インストラクション/モデリング/リハーサル/フィードバック/チャレンジ>という構造でコミュニケーションのスキルを無理なく学ぶことができます。
そして、テキストや動画で学んだあとは、実際の生活で実践することができるように工夫されています。実践の場として最も身近なのは家庭のみなさん、家族です。生徒さんが「こういうふうにコミュニケーションをとればいいんだ」と試してみようと思ったときに、保護者のみなさまが生徒の投げてきたボールをあたたかく受け取っていただけると、いい雰囲気になります。おそらく保護者のみなさまも、穏やかで互いに安心できる「コミュニケーション」ができると、ソーシャルスキルの素晴らしさを共有していただけると思います。

 

――思春期の親子のコミュニケーションについては、悩みを持つ保護者の方は大変多いです。先生から何かアドバイスはありますか。
渡辺先生:子どもが親に相談をするときは、実は必ずしも“答え”が欲しいわけではないんです。親は、「早く答えを出してあげなくちゃ」と焦ったり、自分自身も早く答えて安心したいという気持ちが強くて、つい「こうしたら?」とか「ああしたほうがいいよ」と一方的な解決策を与えたりしようとしてしまいます。無意識に、表情も声もどこかキツめになったりしています。親のイライラや不安は家族にすぐに伝染してしまいます。
でも、子どもは、ただ自分に関心を持ってもらいたかったり、不安や緊張している気持ちに寄り添ってもらいたいのです。一緒に「どうしようか」と“応えて”くれることを望んでいるものです。大人自身も得意な人はいないと思いますが、曖昧なことや、もやもやした状態を解決していく道のりは、子どもたちにとってはすごく不安なものです。是非、その<もやもやタイム>に付き合ってあげてほしいと思います。

――思春期は時によって大人になったり、子どもになったり。甘えていたと思ったら、ぷいっと自分の部屋にこもってしまったりで、そこが保護者を悩ませる原因のひとつです。
渡辺先生:思春期の子どもさんは、親がせっかく何かしてあげようとしても「ほっといて!」ということはよくあると思います。ただ、心の中ではそんな自分に自己嫌悪になっていることも少なくありません。まずは、お子さん自身がなんとかしようともがいている状況なんだと、お子さんの葛藤を理解してあげてください。
なんでもない時や機嫌のいいときに、ちょっと関心をむけてあげて、一緒に何か食べたり、寄り添って話を聞いてあげるところから、大事にしていきましょう。

 

――ほかにも中学生・高校生の保護者の方々にメッセージがありましたら、ぜひお願いいたします。
渡辺先生:これまでの学校での学習は、どうしても「覚える、記憶する」ことの比重が大きいところがありますが、これは心理学では認知能力と呼ばれています。ところが、最近では、粘り強さ、思いやりや感謝、人と協力できること、自尊心といった非認知能力が、精神的健康や学力の成果に大きい役割を果たしていると考えられています。こうした非認知能力は、社会情緒的能力や社会情動的スキルとも呼ばれています。
例えば、ノーベル経済学受賞者のジェームス・ヘックマンは「社会的成功にはIQや学力といった認知能力だけでなく、非認知能力も不可欠である」と述べたりしています。
OECD(経済協力開発機構)などの国際機関では、こうした能力を伸ばしていくことで幸せ(ウェルビーイング)に結びつくような教育を考えるようにと促していますし、日本でも注目されています。幼稚園や保育園から大学を含めた学校でも取り組んでいくことが目指されていますが、まずは生まれた時から子どもさんと接する家庭では、安心できる、互いに思いやる、粘り強いといったスキルを育んでほしいと思います。このコツこそ、今回の「コミュニケーションスキル」の教材に散りばめられているので、NHK学園でお子さんが「コミュニケーションスキル」を履修したら、ぜひ保護者にも教材を一見してほしいと思います。

 

渡辺先生、ありがとうございました。
渡辺先生の研究室の公式サイトでは、先生のご著書も紹介されています。子どものこころやコミュニケーションのことで悩んだときに参考になる書籍があるかもしれません。こちらからご覧ください。

いよいよ始まる「コミュニケーションスキル」科目。NHK学園では、この科目を学ぶ生徒たちの変化や感想も渡辺先生と共有しながら、よりよい学びを追究していきたいと思います。