栗山英樹さん講演「自分を信じる力」Q&A編

2023.06.08

5月19日(金)、NHK学園東京本校に栗山英樹さんがいらっしゃいました!
2023年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で野球日本代表監督を務め、みごと優勝へ導いた栗山英樹さん。在校生とその保護者向けに開催する<N学特別講座>の講師として、「自分を信じる力」をテーマにお話くださいました。講演に続き、栗山さんが生徒の質問に答えてくれました!

生徒からの質問タイム

なぜ、野球選手になったのですか。

栗山さん:父親が怖くて、結構怒る人だったんです。僕が怒られるとぷいっとふてくされるような子どもだったので、それを直そう、我慢を覚えさせようと思って、親に野球をやらされた。それが本当のところです。

 

 

生きていくうえで最も大切にしていることは何でしょうか。

栗山さん:なかなか若い時には気が付かなかったですけれども、「正直にいたい」。それだけです。
選手たちに対してもそうなのですが、「絶対にうそをつくまい」と思っています。今、いろんなことをやりながら、自分の心にないことは言ったり、やったりしないようにと思っています。人間は弱いので、「人に嫌われたくない」とか、我々も思ってしまったりするんですよ。
選手が練習しているときに、「お前、がんばってるな」と意味のない声掛けをするとします。すると、選手はその瞬間に「あ、俺がんばってるんだ」と思って、緊張感が緩んで、逆になってしまうこともあるんです。たった一つの何でもない声掛けが、やる気を削いだり、ぽやーんとさせてしまったりするので、本当に心にあるものをちゃんと伝えるということを心掛けてきました。

 

 

WBC決勝戦のダルビッシュ→大谷の継投について

生徒:決勝戦で8回ダルビッシュ、9回大谷と考えていたとおしゃっていましたが、私は逆だと予想していました。前の優勝の時のように9回ダルビッシュで終わらせるのがすごく見たかったんですけれども、そういう構想はなかったですか。

栗山さん:それもあるよねえ。そっちのほうが良かったかな?(笑)ダルに確認したんです。「先発させるんだけれども、抑えとか、そっち方向は大丈夫なの?」と。そしたら、「監督、好きなように使ってください。日本が勝つためにどこででも投げます。」と言ってくれていました。翔平の場合は、エンジェルスと話をするときに、先発ピッチャーとして使いたいので、ある程度球数を投げさせてほしいという要望が、要望なのでそれを全部聞くわけではないんですけれども、ありました。なので、どちらかと言うと、ダルが後ろという発想は持っていました。ところがプレーしていくうちに、試合で投げられないので、状態が上がっていかず、ダル自身が苦しんでいる感じが理解できたんですね。最後の最後を担うというのはきびしくなってしまった。ものを決める作業は、想定はするけれども、自分の思った通りにはいかないんですよ。自分の思った通りにいかないときに、想定と変えることを、自分が「ブレている」と思うのか、自分が「柔軟に対処している」と思うのか、両方の考え方があるじゃないですか。監督って、そこでも悩むんです。そんな中で、プラスマイナスの要因を全部並べて、プラスの多い方で確立を上げる。
また、一回ダルはやっているので、違う人その景色を見せてくれるというのもある。両方考えていましたけれども、いろんな理由があって、最後はあのかたちがいいのかな、と思いました。状態とかいろいろ考えたときに、最後無理をさせるのは翔平のほうだな、と。これは一緒にやっていたからというのもありますね。
今度機会はないと思いますけれども、今度はダルを考えます。(笑)

 

 

山本由伸について詳しく聞きたいです。

生徒:私は去年の日本シリーズから野球を好きになって、宮崎キャンプから決勝までずっとテレビや配信で見ていました。山本由伸について詳しく聞きたいです。

栗山さん:一番安定感があるピッチャーは僕は由伸だって思っていました。朗希の場合はスケールはでかいですけれども、まだまだ完成形には至っていない。ダルと翔平は、アメリカの選手なので、調整のことも含めて、一番きちっとできていたのは由伸。あだ、由伸は今回フォームを改造していたじゃないですか。
考えたんですよ。一番難しい準々決勝が日本で由伸と佐々木朗希。準決勝をダルと翔平。結果的には日本でダル・翔平にしました。その決断の次には、では、山本由伸が先なのか、佐々木朗希が先なのかという問題もある。難しいのは、正直言うと、二人目のほうです。みんな先発ピッチャーに慣れているので、試合の最初だと準備ができるんですけれども、それができないんですよ。それで結構困っているピッチャーがいて。でも由伸は抑えの経験もあるので、難しいところを由伸に任せて、あの順番になっているんです。
吉田正尚のスリーランで追いついて、さあ日本準決勝行けけるぜとなった瞬間に、由伸が連打で1点を取られる。僕はマウンドに行って「悪い。替わるぞ。」と言った。それに文句があるわけですよね。(笑)わかります。
あのときはピッチャーのことで一番迷いました。由伸の後に出てきたのは阪神の湯浅というピッチャーなんですけれども、彼はあんまりボールが合っていなくて、フォークが抜ける可能性がある。状態で言えば、伊藤大海というファイターズのピッチャーが一番良かった。セットアッパー(抑えの前のリリーフ投手。主に8回を任されることが多い)なので用意はできている。「湯浅」って言ったときに一瞬考えました。これは由伸で勝負して、終われるのかどうか。由伸に対しての絶対的信頼もあるので。唯一あるとしたら、由伸は打たれだすと連打が続くというところがあって。それは、いいピッチャーだからなんですよ。自分が打たれると思うと最初から気を付けるじゃないですか。でも、由伸はいつもどこへ投げても大丈夫だと思っているので、打たれだしてもそれを変えない。打たれると思っていないから、そういうところがちょっとある。一瞬迷ったけれども、WBC始まる前に、「絶対手を下すのは遅れない」と自分に言い聞かせている。替えて失敗したな、というのは納得いきますけれども、替えないで我慢して打たれると納得いかないので。
マウンドに行きながら、由伸になんて言っていいかわからないですよ、日本一のピッチャーですからね。次の日僕謝りましたよ。でも、由伸いい子なんで、「全然気にしないでください。監督。でも、勝ってよかったですね。」と言ってくれました。
年棒6億だろうと、7億だろうと、僕の何倍もらっていようと、替えるのが僕の仕事なので、あそこは替えさせてもらいました。

 

 

スランプの時はどのように乗り越えますか。

生徒:楽しいことや好きなことは続けられる、というお話がありましたが、それでもスランプのようなときがあると思います。そんな時はどのように乗り越えますか。

栗山さん:ある程度レベルが上がってくると、前へ進むのに時間がかかるようになってきますね。
調子が悪いときにあまり打ち続けてしまうと、悪いクセがついてなかなか良くならない。突破するときに、何で悪くなっているのかという分析ができないで動くと、悪くなる可能性があります。
楽しいと思ってやっていても、それを何とかしようと思うと苦しいじゃないですか。楽しくなくなって苦しくなってくる。でもそれは、本当は変われるチャンスです。壁にぶつかっているところで、それを突破すると一つレベルが上がっていくんです。そのときに、それを苦しいと思うか、「チャンスが来たね」「これを超えたら前に行ける」と思うか。苦しいときに「もういやだ」という方向に行くか、「こんなに苦しんだんだから、きっといろんなチャンスや知恵が生まれる」と思って最後まで粘り切るか。続けていれば、必ず何か解け始める。でも、自分が止めてしまうと、解けないまま終わってしまう可能性がある。そんな発想を持ってください。
昔の本に、「人間3日間嫌な思いをしないで生活したら、気をつけろ」って書いてあるんですけれども、人間はいいことも悪いことも起こるので、3日間誰にも嫌な思いをさせないということは、もっと嫌なことが先に起こる可能性がある。だから、選手に嫌なことを言ったときに選手が嫌な顔をすると、ほっとしたりするんです、僕は。
苦しいときも、本当にそれが好きだったら必ずやり続けられるので、必ず超えられると思います。

 

 

WBC準決勝のサヨナラ打。なぜ村上選手でいこうと思ったか。

生徒:ヤクルトファンです。準決勝で村上選手のサヨナラ安打のシーンで、牧原選手が代打の準備をしていたと思うんですけれども、どうして村上選手でいこうと思ったのですか。

栗山さん:これは本当にいろんな理由があります。村上に準決勝で大活躍させて、決勝で4番に戻したい。村上自身が4番にこだわっていたし、翔平やダルのように世界に通じる選手になると信じてやっていたので、最後は4番に戻すという夢が僕にはあったんです。
そんな中で準決勝も苦しんでいて、あの打席を迎えた。監督は、1時間考えさせてくれると答えが出ることは多いんですけれども、瞬間的にがらっと状況が変わって、たくさんのプラスマイナスを頭で計算して、どっちかに決めるのがスピードについていかないときがあるんです。もちろん、前もって準備はしています。
その前の回に、僕は源田選手にバントのサインを出して、そのときに1点取るんです。あのとき、バントの上手い源ちゃんが、バントバントで3ファウルで。バントは調整をするものなので、精神的にプレッシャーがかかればかかるほど力が入ってしまって、操作ができなくなってくるっていう技術なんです。あの源ちゃんがあそこまでプレッシャーかかるってことは、結構みんなプレッシャーかかるな、と思いました。牧原ももちろん練習はしていますけれども、バントの専門職ではないので、結構確立低いな、と言うのは頭の中で計算していました。先読みはすでにしていて、前の回に、次の回で村上に順番来るので、「牧原にバントの準備はしておいて」と伝えているんです。
攻撃になって、案の上、ノーアウト1塁になります。最後に、吉田正尚がフォアボールになりそうなカウントになっていて、横にいた城石というコーチに、もう1回「牧原準備大丈夫ね?」と言ったんですよ。そうしたら城石が「はい?」って言ったんですよ。普通だったら「はい。」って言うところが「はい?」って言ったんです。この微妙な「はい」…。これは白石の中で何かあるんですよ。城石はヤクルトのコーチなので、この打席村上が打つという根拠を持っているような「はい」だったので何かあるなと僕は思ったんです。もう一度冷静になって「この状況で一番馬鹿を見るのは何なんだ」と考えると、バントにいって、それがアウトになって送れなくて、試合が終わってしまう。それが一番納得がいかないと思いました。「やっぱりここまで信じたら、宗を信じるしかないですよね、神様」みたいな感じです。城石に「宗のところに行って、お前に任せたって言ってきてくれ」と言ったら、今度は城石が「はい!」と言ったんです。それで帰ってきて言うには、「『牧原にバント行くよ』と伝えたら、顔面蒼白『ちょっと無理っす』みたいな雰囲気になっていた。」と。長年の経験、信頼関係の中で、城石が「このことは監督に伝えないほうがいい」という「はい」だったと思うんです。「もう1回冷静に考えてどちらがいいか決めてください」という。そういうものも含めてすべてが宗に打たせると野球の神様が決めていたんだと思いますし、僕は最終的に宗でやられたんなら納得がいくと思ったんです。
打った瞬間、僕のところから見ると、選手がみんな前に出るんで打球が見えないんですけれども、打球の感じとして僕は捕られるかと思ったんです。ファーストランナーを換えた周東はもうスタート切っていて、そしたら全然抜けていました。周東に聞いたら、「練習のときから、宗の打球は左中間は伸びるけど、右中間は伸びないって言うのを見てました」って。みんなが準備万端でそこにいてくれた。これは本当に選手が勝ち切ったということなんです。でも、そこの判断と言うのは本当に微妙な、本当に神様が教えてくれたんだと思っています。

 

 

生徒の質問に、笑いを交えたり、問いかけたりしながら、ていねいに答えてくださった栗山さん。回答の中にも、「生き方のヒント」がたくさん含まれていました。

『栗山ノート』でも、感銘を受けた古典のことばを数多く挙げていらっしゃるなど、大の読書家である栗山さん。「NHK学園の生徒やこれから入学を検討している中学生・高校生に1冊勧めるとしたら、どの本を勧めますか。」と講演会終了後に質問しました。

「もし1冊勧めるとしたら『論語と算盤』(渋沢 栄一・著)。守屋淳さんの訳による新書も出ているので、ぜひ読んでみてください。」とのこと。みなさん、栗山さんおすすめの1冊をぜひ読んでみてください。

***
講演会の後には、NHK学園野球部の生徒の質問に答え、激励。野球部メンバーは野球への気持ちを新たにしていました。栗山さん、本当にありがとうございました!