暮らしと言の葉(9)

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2023.02.08

「暮らしと言の葉」コラム第9弾です。アクティブで知的好奇心いっぱいの美衣さん。今回は「土地のお野菜」のお話しです。

土地と言葉

 こんなに流通網が発達した現代においても、土地土地によってそこにあるものは異なってくる。大学生で一人暮らしを始めた時に、生まれ育った広島と関東との野菜の違いに驚いた。

 まず、もやし。広島では関東で売られているもやしもあるけれど、一般的にもやしと言われるのはもっと細い。料理番組で「ひげ根を取りましょう」というので、あのどこまでが根かわからないものを取るのか、とびっくりしたものだ。関東の普通のもやしを見てのちに納得した。広島のもやしはしゃきっとした炒め物には向かないが、お味噌汁などに入れるのはわたしはこちらの方が好きだ。それから春菊。関東で春菊として売られているものの茎が随分太くて硬いのに驚いた。広島の春菊は葉ももっと丸みがあって茎もやわらかい。
 ねぎと言えば広島では青ねぎを指すように思う。辛みもなく、色合いもいいので、私は薬味として使うのは青ねぎの方が好き。白ねぎは鍋物や煮物などの火を加えるものには最適で、とろりとした歯触りと甘みが冬を連想させる。

 旅をすると名所やお店より、その土地のスーパーマーケットに行く。売られている野菜、くだものの名前や形状、魚の色合いや種類を眺めているだけで楽しい。お惣菜コーナーは見たことのないお菓子や寿司、保存食などに出会える。普段着のその土地の食は、風土と密接につながり、生きた言葉につながっている。

白ねぎを嚙めば中より細きねぎ飛び出してきて汁熱きかな

吉川宏志『石蓮花』

 

 

斎藤美衣(さいとうみえ)

1976年広島県生まれ。
歌人/ベビー用品の会社経営
「コスモス短歌会」、「COCOONの会」に所属。
子どもの頃から、言葉と本が好き。
NHK学園の短歌講座も受講中。

休日は一人で本屋に出かけるのが至福の時間。