オンライン短歌講座をご受講中の斎藤美衣さんによるコラムです。今回は、「本屋さん」についてのお話しです。
情報としての言葉、情報の間の言葉
書店が減っているという。たしかに、わたしの住む町でも引っ越してきた十五年前には駅前に割合大きな書店があって、そのほかに小さな書店が二つあったのが、一つ減り、また一つ減り、とうとうこの夏は一つきりになってしまった。それを残念には思うけれど、わたしが町の書店で買い物をよくしていたかというとほとんどしなかった。この頃、本はネット通販で買ったり、電子書籍で読むことが多くなってしまった。味気ないと思いつつも、検索しやすさ、支払いやすさはピカイチだ。しかも上手にわたしの興味に沿った本を薦めてくれたりするのだ。

今年の夏休み、久しぶりに自分の時間が持てたので行きたいと思っていたいくつかの書店へ出かけた。書店で出会う本は、情報ではなくて実体だなと思う。どんな(役に立つ)内容なのか、値段、発行年などではなく、本はかたちを持ってそこにある。重さがあり、手触りがあり、誰かの手によって並べられたつながりがある。本を手にするとは、そういうことをすべて含んだ体験なのだ。
より深く複雑なこころの深部に気持ちを届けたくて、人は言葉の数を増やした。言葉は記号だ。記号の集まりは情報である。だが、情報としての言葉のほかに、情報の間の言葉がある。そして本を読むということは、情報の間をどれだけ読めるかということだと思う。わたしの体に手触りや温度があるように、一冊の本にも手触りや温度がある。だからまた読みたくなる。
渡された本にはきみの脇腹の体温沁みおり『唯識入門』
大井学『サンクチュアリ』

斎藤美衣(さいとうみえ)
1976年広島県生まれ。
歌人/ベビー用品の会社経営
「コスモス短歌会」、「COCOONの会」に所属。
子どもの頃から、言葉と本が好き。
NHK学園の短歌講座も受講中。
休日は一人で本屋に出かけるのが至福の時間。