「暮らしと言の葉」コラム第7弾です。アクティブで知的好奇心いっぱいの美衣さん。今回は、本に出てくる「食べもの」についてのお話しです。
本のなかの食べもの
本を読んでいて食べものの記述があると、じっくり読んでしまう。本は映像や匂いがないから、それがどんな食べものであるのか言葉だけでイメージしなくてはいけない。
外国文学ではしばしば日常で出会わない食べものが出てくることがあって、その度に立ち止まって想像したものだ。想像のなかの食べものは、夢のようにおいしそうだ。

子どもの頃に読んだバーネットの『小公女』の中には、肉汁たっぷりの肉まんじゅうが出てきた。中華肉まんよりもっと大ぶりでスパイスの効いた西洋風のイメージをしていた。寺山輝夫の「ぼくは王さま」シリーズでは、ビフテキという言葉が出てくる。大人になってからビフテキはビーフステーキのことだとわかったけど、なんだかつまらなかった。もっとすばらしいこの上ないご馳走だと思っていたのに。

大人になってからもそんな読書の楽しみは健在だ。トーマス・マン『魔の山』ではたくさんのご馳走が出てくる。中でも主人公がご馳走になったバームクーヘンを薄く切ったものにチョコレートがかかっているものが気になる。どれくらいの大きさで、チョコレートは茶色のものかホワイトチョコレートか。本の中の食べものは想像をふくらませ、まだ見ぬ国や文化へ誘ってくれる。
近ごろ読んだ短歌の中で気になった食べものはこれ。和洋折衷の食べ方が妙においしそうなのだが、まだ試してはいない。
白和へをパンにはさみて味噌汁の熱きをよそふひとりの昼餉に
安立スハル

斎藤美衣(さいとうみえ)
1976年広島県生まれ。
歌人/ベビー用品の会社経営
「コスモス短歌会」、「COCOONの会」に所属。
子どもの頃から、言葉と本が好き。
NHK学園の短歌講座も受講中。
休日は一人で本屋に出かけるのが至福の時間。