暮らしと言の葉(5)

  • コラム
  • 短歌

2022.11.28

 

「暮らしと言の葉」コラム第5弾です。アクティブで知的好奇心いっぱいの美衣さん。今回も感度の高いイベントへ。どんな出会いが会ったのでしょうか。

五感で読む

 東京大田区の書店「葉々社」で開かれていた「ナナロク社の造本展」へ行った。
ナナロク社がこれまで出版した本に直接付箋がはられて、紙の種類や工夫が書き込まれている。何気なくめくっている本に使われている紙が細かく選定され、それぞれの紙にはいろんな名前があり、内容やイメージによってデザインや表現に工夫が凝らされていることがよくわかった。

 

(葉々社提供)

(葉々社提供)

 本は「読む」という。「読む」には音読と黙読があって、だいたいは目で読む。読書、というと目で活字を追う行為をいうけれど、近頃つくづく本は五感で読むものだと思う。手に取ったときの本の大きさ、厚さ。表紙の紙の質感、タイトルや著者名に箔押しやつるっとした加工がしてあれば、指に触れた時にそこに別の感覚がうまれる。遊び紙、とよばれる表紙をめくった次にある紙は、種類や色が違うものが使われていてアクセントになっていることが多い。ページをめくるときの紙の手触り、インクや紙の匂い、しおりひもの色合い、ページを繰る音。それらがみんな集まったのが、「読む」という行為なのだ。

 読むことは、本の中に入り込むことであると同時に自らの底へふかく降りてゆくことだ。孤独であると同時に、もっとも自由なものが本を読むことにはある。本、そしてそこに書かれている言葉は、記号や情報にはとどまらない。食べる行為が栄養素を摂取することだけでないように、周縁であるようなことがもっともゆたかで大切なことなのだ。

子ら眠り妻も眠ればゆたかなる暗闇の底灯ともして読む
                                 高野公彦『淡青』

 

斎藤美衣(さいとうみえ)

1976年広島県生まれ。
歌人/ベビー用品の会社経営
「コスモス短歌会」、「COCOONの会」に所属。
子どもの頃から、言葉と本が好き。
NHK学園の短歌講座も受講中。

休日は一人で本屋に出かけるのが至福の時間。