通信制高校で友だちをつくるには
- 通信制高校とは
「友だちができるかとても不安」―多くの担任がしばしば聴く悩みです。通信制高校に入学を考えている方の中には、中学校やこれまで通っていた高校など今までの環境と異なる通信制高校での学校生活の中で友だちができるのか不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
保護者の方も、自学自習の学びが中心の生活になって人間関係を築いていくことできるのか。誰かと一緒になって物事に取り組む機会を得られるか、お子さんの入学後のイメージを持ちづらいところでしょう。
ここでは、通信制高校の生徒たちはどうやって友だちを作っているのか、友だちづくりのために心がけたいことなどをお伝えします。登校した日にはほかの生徒や先生とどんな接点があるのか、通信制高校の学校生活を具体的にイメージするのにもお役立てください。
目次
友だちづくりのきっかけ
今は学校で友だちと楽しそうに集っている生徒の中にも、入学当初には「どうやって友だちをつくればいいのかわからない」と相談をしてきた生徒はいます。生徒たちに友だちができたきっかけをきいてみると
・スクーリング
・学校行事やイベント
・ホームルーム
といった答えをよく耳にします。
学校行事やイベントでは他の生徒との共同作業が多いので自然とことばを交わす機会もできます。スクーリングでは、特に体育や家庭科などの実習でペアやグループを組んだことがきっかけで仲良くなることが多いようです。
仲良くなるきっかけは、やはり共通の趣味や好きな音楽などの話題。NHK学園の場合、教科のスクーリング以外にも、多様なテーマの実践講座やあるテーマについてお話を聞いて考えを深めるイベントなども開催しているため、そうした場をきっかけにお互いについて知り合っていくことも多いようです。
人とのつながりへの最初の不安によりそって
しかし、話しかける一歩がなかなか踏み出せない生徒もいます。通信制高校は登校の頻度が全日制高校より少ないことや自分のペースで学習することができることから、さまざまな経験をしてきた生徒も多く在籍しています。中学校や前に通っていた高校での人間関係に傷ついた生徒、これまでの不登校の経験から他者とのかかわりに慎重になっている生徒、コミュニケーションそのものに苦手意識のある生徒など、人とのつながりに不安を持っている生徒は少なくありません。
小学校や中学校で学校に行く機会が少なかった生徒にとっては、「誰かと一緒に何かをする=協同する」という以前に、見知らぬ誰かと話をすることに抵抗があるというケースも少なくないでしょう。NHK学園の場合、担任はもちろん個々の生徒の悩みや相談も受け付けますが、ホームルームの場を友だちづくりのきっかけをつかめるよう後押ししています。
「はじめの一歩」はホームルームから
友だちができるのか、つきあっていけるのかと、不安を抱いている生徒は大勢います。そうした生徒が、誰かとの関係づくりで、「はじめの一歩」を踏み出す舞台となっているのがNHK学園高等学校のホームルーム活動です。
ホームルーム活動は通信制高校の「特別活動」の柱
通信制高校では、教科のスクーリングとは別に、卒業までに計30時間以上、「特別活動」に出席することが卒業の要件として定められています。そして、ホームルーム活動は、生徒会活動や学校行事と並んで、その「特別活動」の柱の一つと位置付けられています。3年間で30時間以上の出席ということは、単純に考えれば1年間で10時間程度の特別活動に出席することになります。中には、それだけの時間数に出席するのは、「大変だ」と思われる方もいるかもしれません。ですが、NHK学園高等学校は、将来の自立に向けて、生徒や友だちを含めたさまざまな他者との交流を通して、他者への理解とともに自己理解を深め、他者と協同できる力を養う場として「特別活動」を本当に大切に考えています。なかでもホームルーム活動はもっとも日常的な「特別活動」です。クラス担任の先生たちは、このホームルームの時間をとても大事に、そして工夫をして運営しています。
ホームルームで生まれる小さな変化と大きな成長
友だちができると生徒は変わる
ホームルームの時間に隣の席の生徒と話す時間をつくりました。すると友だちができるか大きな不安を抱えていた生徒が「少しだけ話をすることができた」と教えてくれました。担任は「とても勇気をもった、大きな一歩だよ」と声をかけました。いまでは多くの友だちに囲まれているその生徒が後日担任に話をしてくれたのは、「じつは先生に言ってもらえて、自信がついた」ということでした。
“友だちができる”と生徒の表情や行動は劇的に変わります。その様子を何度も見て喜び合ってきた担任たちは、この確信を心に刻んでいます。ホームルームでは、なるべく生徒同士がかかわり合える活動をすること、そして見守ることを心がけています。NHK学園高等学校の、当たり前の、でも欠かすことのできない取り組みです。
起立性調節障害から一歩を踏み出す
ホームルームの教室にすんなりと入って行ける生徒ばかりではありません。起立性調節障害で休みがちとなり、登校しても保健室で休んでいることが続いていた生徒がいました。「早く友だちを作ってクラスに馴染みたい」という希望はあっても、初めての人に声をかけるのはとても緊張するとのこと。生徒と担任は、保健室の養護教諭にも入ってもらって、まずは声かけの手順を相談。最初は後ろの席の生徒に話しかけてみる、天気の話から始めてみるなど“作戦”を立てて、一緒に教室に向かいました。生徒は、何とか中に入ったものの緊張した面持ちのままホームルームが終了。担任が目配せをすると、勇気を振り絞り、後ろの席の生徒に「おはよう。○○(名前)って言います。よろしく」と(やっと)自己紹介をすることができました。あとは、想定外ということでしょう。生徒は、気になって二人の会話の様子をうかがっていた、周りの生徒たち数人とも目が合うと、一人、また一人と次々に声をかけていきました。
この日をきっかけに、その生徒は親しい同級生といっしょに学習会を開けるまでになり、自分の体調に合わせて休みや遅刻を“適度に活用”することも覚えました。2、3年次には部活動や委員会活動にも積極的に参加し、いつしか起立性調節障害の症状は和らいでいました。卒業後は大学に進学し、福祉分野で働くことを目指しています。
役割を持つことで自信が芽生える
ホームルーム活動では、生徒はそれぞれに役割を任され、それが生徒のうれしい変化を生むこともしばしばです。
場面緘黙のある生徒がいました。その生徒の担任は、ホームルームで「話すのが苦手な生徒は聞き役に徹してOK。しっかりメモを取ること」と宣言してグループワークをスタート。生徒が自発的にメモを取る様子を見守り続けていました。そうやって数か月が経ったころだったでしょうか。担任がその生徒にちょっと確認したいことがあって電話をかけました。生徒が電話で受け答えをする、その様子を見て驚いたのがご家族で、「何年も家族以外と話さなかったので感動した」と連絡をいただくことになりました。最近では、その生徒は自分から、進路の相談で担任に電話をかけてきています。
大事なのは、生徒が自分でもできる、自分がやってみたい、と思えることなのかもしれません。ホームルームには、そのきっかけがさまざまにあります。入学当初から、話を自分からすることがなく、話しかけても一言、二言しか答えない生徒がいました。その生徒がホームルームでのアンケートで、ひと言だけ「運動会実行委員をやってもよい」と書いていたので、担任は「それならば」と任せてみました。すると、生徒はやり遂げて、次は学園祭実行委員も務めてくれました。その生徒も、最近では進学の希望などを自分からも少し話をしてくれるようになっています。
ホームルームという集団の場で一歩を踏み出し、役割を見つけた生徒は、少しずつでも自信を得て、自分を表現し、次の自分へと歩みを進めていきます。
ホームルームは小さな「社会」
何かをすることばかりがホームルーム活動ではありません。
小学校、中学校と、ほとんど登校できなかった生徒がいました。塾での勉強はしていたので英語は得意。自宅での勉強には問題がないのですが、2年次の途中までは、スクーリングになかなか来ることができませんでした。ところが、2年次後半になってなぜか登校できるようになりました。担任にも保護者にも思い当たるところがないまま卒業。その生徒が感謝の言葉とともに、担任にこんなことを尋ねてきました。「いつもHRでおしゃべりが止まらず注意されていた男の子たちも卒業できましたか?」と。みんな卒業できたことを伝えると、その生徒はこんな話をしてくれました。「あの子たち、先生に何度注意されてもへこたれず、楽しそうでした。私は、人前では『きちんとしっかりしないといけない』と思っていて、なかなか外に出られなかったけれど、『ああ、あんな感じで、自分が思うように自然に過ごしていてもいいんだな・・・』と思えました。だから、学校に来られるようになりました。すごく感謝しています」。
ホームルームは小さな「社会」です。その場にいることで、すでに、生徒は何がしかの変化のきっかけを掴んでいます。そんなHRに誰もが入って来られるように、NHK学園高等学校の先生たちは日々奮闘し、工夫し、さまざまなところから生徒たちを見守っています。そして、生徒たちは、その先生たちの想像を超えて成長していきます。