NHK学園生涯学習講座は、おかげさまで50周年を迎えました。新年度にあたり、短歌講座監修の歌人・永田和宏先生にメッセージを寄せていただきました。
短歌講座受講者の歌会始・入選について
(参考:「歌会始」短歌講座の佐藤一央さんが入選されました! | 生涯学習通信講座 | NHK学園)
私はNHK学園の生涯学習50周年ということでよく続いたと思いますし、50年続いたということの意味はとても大きいと思います。4月からまた新しい年度が始まります。そこでぜひ一人でも多くの方に歌に接していただきたい、歌を作っていただきたいと思っております。
私は長く歌会始の選者をやっておりますが、今年の「夢」というお題で1月に歌会始がありました。今年は嬉しいことにNHK学園で短歌を勉強しておられる佐藤一央さんが見事預選歌として選ばれました。皇居の松の間で歌が披露されましたが、これはとても私たちとしても嬉しいことでした。やはりNHK学園で日頃、歌を熱心に作っておられたその賜物だと思います。
「私は才能がないから」「この人は才能があるから」っていう言い方をよく聞くんですが、私はおそらく違うと思います。どのくらい歌で自分のことを表現したいか、どのくらい人の歌を喜んで読めるか、そのあたりのことで、歌の善し悪しが決まってくると思います。私は上達をするために、歌が上手くなるためには、自分で歌を作るのも大事ですけれども、人の歌を読むということもそれに劣らず大事なことだと思っております。そんなつもりで人の歌も熱心に読むという習慣をぜひつけていただきたいというふうに思っています。
上皇妃美智子さまの歌集について
実は最近、私が発行のお手伝いをいたしまして、上皇妃美智子さまの『ゆふすげ』という歌集が出版されました。これは歌集としては異例のとも言えるほど多くの方に読まれております。発売から1ヶ月で四刷、10万部を超えたということで、私自身も驚いています。これは美智子さまの人気があること以上に、やはり美智子さまの歌がいいからかなというふうに思っております。
美智子さまの歌集「ゆふすげ」を読んでいきますと、歌としてしか伝わらない思いも感じられます。皇后として、あるいは皇太子妃として発言というのは、どうしても公のものになってしまいます。けれども、歌でなら、自分の本音が言えるというか、日頃日常の中で感じていたことが、非常に素直に我々読者に伝わってくるということを本当に感じさせていただく歌集になりました。皇室というものを非常に身近に感じられて、皇室の方々も我々と全く同じことを日常の中で感じておられるんだということを感じることができたのも、この歌集ができたおかげだと思っております。
このように歌で、歌でしか言えないこと、歌でなら言えること、そういうことが日常にいっぱいあります。それを五七五七七という言葉にまとめると言う習慣をぜひ作っていただきたい。
NHK学園生涯学習講座50周年です。50年からの新たな出発として多くの方に短歌の講座に参加して、歌を見せていただきたいというふうに思っています。ぜひ奮ってご受講ください。
永田 和宏(ながた かずひろ)NHK学園短歌講座監修
昭和二十二年滋賀県出身。
歌人・「塔」選者・歌会始選者・「朝日歌壇」選者。
京都大学名誉教授/JT生命誌研究館館長。
歌集『饗庭』『風位』『夏・二〇一〇』『置行堀』など。歌書『あの胸が岬のように遠かった』『新版作歌のヒント』『近代秀歌』『現代秀歌』『知の体力』ほか多数