【俳句コラム】麒麟流作句法(10)

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2023.02.08

好評シリーズの第10回。3月12日(日)NHK全国大会開催にあわせたプレミアム講座でもご指導いただきます!リアル麒麟さんに会えるチャンスですよ。

 

 僕が担当している俳句教室では、新年最初の講座で「何のために俳句を作るのか」と生徒さんに質問をします。もちろんその答えに正解や間違いはありません。
しかし秘かに「楽しいから」という答えが返って来て欲しいと願っています。何年も俳句を続けたベテラン作者になると、投句に忙しくなりこの事を見失いがちだからです。

「楽しい」や「作りたいから」というシンプルな初心の想いを時々思い出す事で、いつまでも俳句と新鮮な心で向き合う事が出来るはずです。

投扇興ふくらはぎより尻を上げ    西村 麒麟

投扇興で新年の季語。的に向かって扇を投げて、的や扇の形で点数を競う、華やかな座敷遊戯です。歳時記には掲載されていますが、なかなか経験するのが難しい季語の一つです。僕は投扇興という季語が好きでほぼ毎年作りますが、実は経験した事はありません。

 

 しかし、俳句は何も経験した事しか詠めないわけではありません。想像力という武器を駆使して、いかに「経験したかのように」見せるのも俳句の技巧です。この句は出来るだけ情景が読者に見えるように、何度も頭の中で投扇興を繰り返し、イメージを具体的に描写した俳句です。

 

鎌鼬火の用心の旗が揺れ     西村 麒麟  

 実態の掴めないものを詠むコツをお授けします。鎌鼬という見る事も触る事も不可能な季語が上五にありますから、残りの十二音を出来るだけ実景を思い浮かべやすい表現としたいところです。そうする事で、一句に説得力を生む効果を期待できます。
 

 見えないものを表現の中で存在させるためには、どうすれば良いのか。この難題に立ち向かうのも俳句の面白さです。

 

宇津田姫鷗の中をすたすたと     西村 麒麟

 

 宇津田姫は冬を司る女神。残念ながらまだお目にかかった事はありません。

 

 

 

 

西村麒麟

1983年生まれ。東京都江東区在住。俳句結社「麒麟」主宰。「古志」同人。第65回角川俳句賞受賞。句集に「鶉」「鴨」。長谷川櫂に師事。現在、NHK学園市川オープンスクールで「きりんと学ぶ! 俳句の夜 西村麒麟・ 俳句塾」を開講中。

詳細は下記リンクよりご確認ください。

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