俳句結社「麒麟」を立ち上げた麒麟さん。お仲間が全国各地にどんどん増えていますよ!好評のシリーズ第9回です。
俳人にも様々なタイプの作り手がいます。一句に時間をかけ推敲を重ねる人、天からすらすらと言葉がおりて来るような人。吟行が得意な人、静かに一人机に向かう人。これらは俳人の個性でもあり、どの方法がベストかは誰にもわかりません。
そのような中で好き嫌いの分かれそうな俳句の作り方が「席題」ではないでしょうか。題を出して俳句を作る所謂「題詠」のには、宿題のように予め題が決められている「兼題」と、その場で題を出して作句する「席題」とがあります。
席題の最大の敵はプレッシャーです。制限時間内に作れなかったらどうしようかと、焦れば焦るほど言葉が逃げていきます。
俳句初心者を集めて、この恐ろしい「席題」をやった事があります。その日は「股引」と「初冬」の二題。
困ったなぁ、と思いながら句材を探しながら室内をキョロキョロしていると、「ヨシっ!」と大きな声を出した人がいました。さっそく俳句が出来たふりをして、周囲を笑わそうとしたようです。こういう空気を動かしてくれる人は句会に大切です。

初冬やよしと大きな声がして 西村 麒麟
よし,ありがとう、一句出来ました。席題中は、室内に句となる材料が落ちている事がありますので、出来るだけキョロキョロしてみて下さい。
股引のまま使ひたる味噌醤油 西村 麒麟

こちらは股引も、味噌も醤油も想像。何もなければ過去の記憶からイメージを飛ばす方法があります。鳥羽に旅行に行った時に、海女さんが経営している何でも屋さん(コンビニのような)で、味噌と醤油が売っていた事を思い起こして作りました。
エンジンの大きな虻の来たりけり 西村 麒麟
これは「虻」の席題。喫茶店での句会でしたので、虻は目の前にいませんでした。
長生きの羽がばたばた扇風機 西村 麒麟
これは「扇風機」が題。扇風機ではなく、エアコンが設置された部屋での俳句。
日射病畝だけ見えてゐたりけり 西村 麒麟
これは阿波野青畝の勉強会での句会。「畝」が題でした。
机の周辺から心の中まで、様々な場所に席題のヒントは転がっているはずです。

西村麒麟
1983年生まれ。東京都江東区在住。俳句結社「麒麟」主宰。「古志」同人。第65回角川俳句賞受賞。句集に「鶉」「鴨」。長谷川櫂に師事。現在、NHK学園市川オープンスクールで「きりんと学ぶ! 俳句の夜 西村麒麟・ 俳句塾」を開講中。
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