俳句結社「麒麟」を立ち上げられた、西村麒麟さん。好評のシリーズ第8回です。
華やかな鶴と優しき大きな亀 西村 麒麟
誰も気がつかないけれど、実は友人の結婚式でのお祝いの句です。名前に「華」と「優」が付く新郎新婦の友人へ贈った俳句。結婚式ですから、もちろん目出度い句にする必要があります。季語は「鶴」で冬ですが、鶴亀なら縁起が良いだろうと思って作りました。当日結婚式場で書いた句なので、数分で考えた俳句のはずです。こういう句は、不思議と時間をかけるよりもさらっと作った方が自然となります。
暑苦しい挨拶が喜ばれないのと同様に、暑苦しい挨拶句もまた避けたいものです。
このコラムをご覧の方だけにこっそり教えますが、挨拶句に関しては川崎展宏さんを目標にしています。
卒業生 札幌で挙式
オメデタウレイコヘサクラホクジョウス
結婚挨拶状への返事
寒椿鍋つやつやに磨いてゐるか
挨拶句は相手の気持を考えつつ、さらりと涼しく詠みあげるのがコツ。展宏さんには遠く及びませんが僕の句をいくつか。
この人と遊んで楽し走り蕎麦 西村 麒麟
お蕎麦をご馳走になればその御礼に一句。
燕来る縦に大きな信濃かな 西村 麒麟
旅先の土地の人々への挨拶も重要。これは信濃の国は北信から南信まで大きく、豊かな土地ですね、という句。
呉れるなら猫の写真と冷の酒 西村 麒麟
お祝いに何か欲しいものは?と聞かれ、素直にお酒を下さいとだけ返事をするのは面白味がありません。その人が愛猫家であるのを知っていたのでこの一句を。後日本当に冷酒と猫の写真をいただきました。
会社の上司や取引先に接する様に、相手を持ち上げるだけでは卑屈な句になってしまいます。心を籠めつつ軽やかに詠みましょう。
夕べからぽろぽろ泣くよ鶯笛 西村 麒麟
嬉しい時だけでなく、悲しい時の追悼句も俳句では重要です。これは大好きな俳人の八田木枯さんが亡くなったのを知った日に作った俳句です。悲しみの感情が本物の時は、思い切ってその感情を素直に詠むのをお勧めします。
西村麒麟
1983年生まれ。東京都江東区在住。俳句結社「麒麟」主宰。「古志」同人。第65回角川俳句賞受賞。句集に「鶉」「鴨」。長谷川櫂に師事。現在、NHK学園市川オープンスクールで「きりんと学ぶ! 俳句の夜 西村麒麟・ 俳句塾」を開講中。
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