【俳句コラム】子規庵より(2)

  • コラム
  • 俳句

2022.11.01

歌人でNHK学園短歌講座講師、そして「子規庵」理事長と、獅子奮迅の勢いで活躍されている、さいとうなおこさんからのコラム第2弾をお届けします。

子規庵の井戸

 この秋、子規庵は、九月の糸瓜忌の期間を命日の十九日を挟み、八日間特別公開をいたしました。夢中でお客様を迎えた数日は、久しぶりに庵が活気を取り戻した日々でした。

三月末に修復が終わったお蔵の中に、子規の遺品の地球儀や湯たんぽ、体温計、蛙の置物等を展示し、密にならないよう工夫して観ていただきました。貧乏な財団の為、ネット上だけの告知でしたが、台風の名残の中、多くの方が来られて嬉しかったです。肝心の糸瓜は、ズッキーニ程の二本と赤ちゃん糸瓜数本でしたが、十月に入って見事に成長しました。

 

 

お蔵の横の井戸跡に気づかれた方がどの位おられるでしょう。この場所は、ささやかなドラマのあった場所なのです。


子規は日記『仰臥漫録』(明44・9)に、

家人屋外にあるを大声にて呼べど応へず 
ために癇癪起りやけ腹になりて牛乳餅菓子など貪り腹はりて苦し
家人屋外に
ありて低声に話しをるその声は病牀に聞ゆるに病牀にて大声に呼ぶその声が屋外に聞えぬ理なし
それが聞えぬは不注意の故なりとて家人を叱る

 

と、亡くなる一年前に書きました。家人は母と妹の律さんで、屋外は井戸端のことです。
まるで二人に無視されたかのように腹を立てて駄駄っ児のようですが、これも正岡子規の素顔です。

 

正岡家 使用井戸

正岡家 使用井戸

子規庵は当時、元加賀藩前田家別邸内の長屋で借家でした。共同の釣瓶井戸なので母と妹は話しながら順番を待ち、子規の寝巻や繃帯などの大量の洗い物をしていたそうです。


日記の続きはこうです。

 

午後家庭団欒会を開く 隣家よりもらひしおはぎを食ふ

 

何だか幸せそうですね。井戸跡を深く掘ってみたいなあ、と私は時々眺めています。

 


十一月は第二土曜・日曜、第四土曜・日曜、十二月は第二土曜・日曜が公開日です。

糸瓜と井戸跡を見に、初冬の子規庵へお越しください。お待ちしています!

 

 

 

さいとうなおこ
歌人・「子規庵」理事長・
NHK学園短歌講座講師

1943年、朝鮮生まれ。45年、馬山より博多港へ引き揚げる。京都、福岡県、大阪府を経て、埼玉県所沢市へ。73年、「未来短歌会」に入会。近藤芳美に師事。NHK学園短歌講座専任講師として、開講より長く講座運営に携わる。現在、歌誌「未来」選者、一般財団法人子規庵保存会理事長。