【俳句コラム】神野紗希の俳句日記②

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2022.10.29

いち、じゅう、ひゃく、せん

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、一昨年、昨年と、ほぼ投句審査のみで規模を縮小せざるを得なかった俳句甲子園が、今年は愛媛・松山の地で3年ぶりに通常開催できました。彼らにとって3年とは、高校生活のすべてです。みな、はじめての俳句甲子園に目を輝かせ、いきいきと語り合っていました。

 

 

俳句甲子園の決勝では、毎年、漢字一字を詠みこむ兼題が出ます。私の参加した第四回の決勝の兼題は「青」でした。字の詠みこみは、まずその漢字が含まれる単語をピックアップします。頼りにしたのは電子辞書。広辞苑には「逆引き機能」があり、単語のおしりから検索できるので、「あお」からはじまる単語だけでなく、「あお」「せい」などで終わる単語を探すこともできます。青空、青銅、緑青といったふつうの単語もあれば、青葡萄、青葉、青木の実など季語の場合も。今ではインターネット上の辞書サイトでも、さまざまな検索が可能ですね。

書き出した単語を見つめて作ったのは、次の句でした。

 

起立礼着席青葉風過ぎた   紗希

 

教室のふだんの風景、青葉を吹き渡る風にハッとした瞬間を詠みました。「起立礼着席」のフレーズは、575に乗りそうだなと以前句帳にメモしておいたものです。まだ形にはならなかった言葉たちが、新たな兼題の刺激によって、思いもよらない世界をひらきます。過去の句帳にも、未来の俳句の種は眠っています。

 

 

今年の決勝の兼題は「十」。勝敗を決めたのは、次の二句の対決でした。

 

露草に十年先の来てをりぬ  矢田部慶(開成高校)

花芒凪の十万億土なる    関友之介(海城高校)

 

十年先というリアルな未来を、露草の醒めた青に引き寄せた矢田部さんの句。一面の芒が揺れ止んだ全景に、浄土のひかりを見出した関さんの句。僅差で前者に軍配が上がりましたが、いずれも、現世の儚さに立ち秋風に吹かれる、堂々たる作品でした。

 

 

NHK全国俳句大会の今年の兼題は「千」です。千切り、千両、百千鳥、千代紙、千秋楽、千手観音……。みなさんは、どんな「千」を見つけましたか?