「くにたち俳句大会 選評座談会」で神野紗希さんとの対談が大好評の俳人・西村麒麟さん。麒麟さんならではの視点で俳句づくりのコツやポイントを紹介するシリーズ第7回です。
スケートの下手で歩くや父と母 西村 麒麟

この句は、角川俳句賞をいただいた時の応募作の一句です。この句はよくも悪くも「下手で」という言葉によって評価が大きく変わります。
選考委員の先生の一人からは「何で下手なんて言葉を応募作に入れたの?」と聞かれました。
僕は叱られるような気がして、キドキしながら次のように答えました。
麒麟 「普通は下手なんて言葉を俳句に入れると駄目になります、だから敢えて入れてみました」
ドキドキしていると、選考委員の先生はニヤリと笑い次のように。
先生 「へー、やるじゃん」
正直ホッとしました、あー、良かったと。
俳句の世界ではこういうのは止めた方が良い、と言われる場合の多い表現が幾つかあります。例えば季語が複数入った季重りや、一句の中で切字を二度使う「や、けり」の句等。
残花かな月の光を通しつつ 西村 麒麟
これは二十代の頃に作った句です。
「上五のかなに名句無し」と一般的には上五には「かな」を避ける傾向があります。しかし、下五を静かに流すことで一句として成り立つはずだと思い、思い切って使ってみました。

栃木かな春の焚火を七つ見て 西村 麒麟
この句も同様です。実はさりげなく挑戦的な句なのです。
月島は楽しき島やソーダ水 西村 麒麟
おそらく多くの講座で「楽しき」なんて直接感情を表現するのはいけない、と指導されるのではないでしょうか。
僕は敢えて「美し」や「楽し」と言った言葉を使うことがあります。
俳句は文学ですから、よほど人を不快にさせる例外的な言葉以外は使用可能です。
詩がルールを超えたところにこそ、今までに無かった俳句になる可能性がたくさんあります。

降る雪や明治は遠くなりにけり 中村草田男
「や」「けり」を使用しても名句は名句です。
大切なのは、それぞれが恐れずに新しい作品を産み出そうと努力することです。
ただし、冒険的な表現は失敗する可能性も高いので要注意して下さい。
しかし、必ず成功する冒険なんてワクワクしません。

西村麒麟
1983年生まれ。東京都江東区在住。俳句結社「古志」同人。第65回角川俳句賞受賞。句集に「鶉」「鴨」。長谷川櫂に師事。現在、NHK学園市川オープンスクールで「きりんと学ぶ! 俳句の夜 西村麒麟・ 俳句塾」を開講中。金曜の夜、麒麟先生と俳句をたのしんでみませんか。
詳細は下記リンクよりご確認ください。