松坂慶子さん主演のNHK土曜ドラマ「一橋桐子の犯罪日記」。切なくて笑える<終活青春グラフィティ>。Eテレ「NHK俳句」ともコラボなど、放送直後から大反響!そして、このドラマで欠かせないのが主人公桐子の俳句。ドラマ放送を記念して、俳句考証の俳人・神野紗希さんに「俳句日記」をお願いしました!
ここに、ふたつ
この秋、日本現代詩歌文学館で、岩手県・北上の高校生と俳句を作りました。みな、俳句創作はほとんどはじめて。まずは、俳句の穴埋め問題でウォーミングアップします。
ここに( )がふたつ 種田山頭火
「ここにどんなものがふたつあったら、いいなあと思いますか?( )に入る言葉を自由に考えてください」。高校生の答えは、ユニークでさまざまでした。

たとえば、「ここにレモンがふたつ」。レモンという秋の季語から、空気のすがすがしさ、青春の爽やかさが感じられます。
「ここに指輪がふたつ」。指輪というものを通して、ともに過ごす時間を誓った二人の姿が見えてきます。
「ここに人生がふたつ」と答えた子も。私の人生のAプランとBプラン、二つの未来のどちらを選ぼうか進路を悩んでいる、自分の今をイメージしたそうです。
山頭火の答えは
〈ここにふきのとうがふたつ〉。
溶けかけた雪のすきまに、ちらりと覗くさみどり色。春を見つけた喜びや嬉しさが、寄り添う「ふたつ」のあたたかさで、さらに広がりますね。

俳句は、ものに語らせる詩です。ここに何がある、と述べるだけで、めぐる季節やゆたかな感情を共有することができます。
ここにふきのとうがふたつある。
たったそれだけの発見が、嬉しくてたまらないのが、俳人なのです。

穴埋め問題、6歳の息子にも聞いてみました。
「うーんとね、しんぞう」。
ここに心臓がふたつ。
よりそう命のぬくもりが感じられるじゃないか。きみの心臓とママの心臓、ここにもふたつ心臓があるね、と頭をなでて抱きしめました。

神野紗希(こうのさき)
昭和58年愛媛県生まれ。現代俳句協会副幹事長。NHK学園講師。
高校時代、俳句甲子園をきっかけに俳句を始める。令和2年、第11回桂信子賞受賞。句集に『星の地図』『光まみれの蜂』『すみれそよぐ』ほか、著者多数。NHK学園「小島健&神野紗希 ネット俳句講座」