【シリーズ】秀歌を読もう(5)松村正直

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2023.04.19

松村正直先生による好評連載「秀歌を読もう」第5弾。松村先生には今年度から「短歌友の会」選者もお願いしています!

秀歌を読もう(5)

 

書くことは消すことなれば体力のありさうな大きな消しゴム選ぶ

河野裕子『体力』

 文章を書く時にどこも直さずに書き上がることなどほとんどない。たいていは何度も何度も書き直し、推敲した末にようやく完成する。「書くことは消すこと」という断定が、ものを書く苦心をありありと伝える。

 

 「体力のありさうな」が印象的だ。体力と言えばふつうは人間や生きものに使う言葉だが、それを消しゴムの形容に用いている。まるで頼もしい相棒のように、身近にいてサポートしてくれる存在なのだろう。

 


四句が九音と字余りになっていて、どっしりとした消しゴムの感触を思わせる。どれだけ使っても大丈夫という安心感が、書き続けることへの励ましにもなっているのだ。

 

(NHK学園短歌講座機関誌『短歌春秋』166号/2023年4月発行 より)

 

 

松村 正直(まつむら まさなお )

歌人・NHK学園短歌講座講師。2023年度「短歌友の会」選者。
1970年生まれ。東京都町田市出身、京都府京都市在住。歌誌「塔」元編集長。NHK学園オンライン教室「短歌のコツ」が好評開講中!