秀歌を読もう(3)
短歌講座機関誌『短歌春秋』連載の好評連載「秀歌を読もう」第3弾。
にせものの車に乗ってほんものの子供とゆけり冬のゴーカート場 山崎聡子『青い舌』
遊園地などにある遊戯用の車に乗って子と遊んでいるところ。楽しいはずの場面なのだが、歌の雰囲気は明るくない。
ゴーカートは本物の車とは違うので、なるほど「にせものの車」である。しかし、その後に続く「ほんものの子供」が何とも不気味だ。本来は必要のない「ほんものの」という形容が付くことで、かえって本物であることが揺らぐような印象を受ける。
本物と偽物はいつ入れ替っても不思議ではなく、自分と子の関係性は絶対的なものではないとの不安感が滲む。それはまた、自分は「ほんものの母親」であるのかといった思いにもつながっているのだろう。
松村 正直(まつむら まさなお )
歌人・NHK学園短歌講座講師。1970年生まれ。東京都町田市出身、京都府京都市在住。歌誌「塔」元編集長。NHK学園オンライン教室「短歌のコツ」が好評開講中!