このコラムでは、俳人・西村麒麟さんならではの視点で俳句づくりのコツやポイントをご紹介しています。好評シリーズの第4回です。
俳句は自由に
初鰹片身をぐつと外しけり 西村 麒麟

高知県に住んでいたこともあり、鰹は大好物です。鰹、又は初鰹という季語は、食べるだけで無く俳句においても大変人気のある季語で、松尾芭蕉にも〈鎌倉を生(いき)て出(いで)けむ初鰹〉の句があることはよく知られています。芭蕉から現代まで詠まれ続けた季語ですから、新しい詠み口を探すのは当然大変です。
そこで「鰹」の季語で詠む際の王道の作り方、初物を喜ぶ、食べて美味しいという発想以外に何か方法はないかと考えました。
悩み抜いた結果、そうだ!捌いてみよう、と思い付いたわけです。しかしながら、食べるのは得意でも鰹を自分で捌くとなると一寸大変です。だいたい僕は家庭科の成績が十段評価で二だったぐらい不器用。さてどうしましょう。
ここで頼りになるのが「YouTube」の料理チャンネルです。腕に覚えのある料理人が実に見事な包丁捌きを見せてくれます。なんとも便利な世の中になりました。人によってはこの方法を邪道であると眉をひそめる方も少なくない事は想像出来ますし、気持もある程度わかります。
僕もYouTubeだけ使って俳句を作っているわけではなく、通常は様々な歳時記や全句集の山から使用例を研究し俳句を作ります。市場に出向いたり、実際に食べるという経験も大切にしています。それでもYouTubeは使えるというのが僕の答えです。芭蕉や正岡子規、高浜虚子、偉大な俳人達も、頭が柔らかく新しいものに興味を持てた詩人ですから、YouTubeがあればこっそり使用したような気もします。もちろん旅番組や料理本も参考になります。僕がよく使い、実際に役立つことが多いのは魚菜図鑑です。
誤解が無いように、何が言いたいかをまとめると、情報社会最高、YouTube見るべし、と言いたいわけではありません。
僕が主張したいのは、自分が出来ること、経験したこと以外にも、俳句は自由に詠めるという事実です。文字からの情報も、映像からの情報も、俳句に役立つものはどんどん活用することをお勧めします。
ブータンに綺麗な王や籠枕
こちらも僕の句ですが、ブータンを訪れたことはありません。


西村麒麟
1983年生まれ。東京都江東区在住。俳句結社「古志」同人。第65回角川俳句賞受賞。句集に「鶉」「鴨」。
現在、NHK学園市川オープンスクールで「きりんと学ぶ! 俳句の夜 西村麒麟・ 俳句塾」を開講中。金曜の夜、麒麟先生と俳句をたのしんでみませんか。
詳細は下記リンクよりご確認ください。