心のメモ帳

NHK学園高校、登校コース2Kの「小さな黒板」。担任がその黒板に書いている短歌は、その日の気分で選んだ作品であったり、通勤中に直感で思い浮かんできた作品であったりします。いずれにしても、少しでも生徒たちに短歌の世界を知ってもらいたい、いい短歌だなって思ってもらいたいという気持ちで書いています。
「いい短歌」であるかどうかは個々人の感じ方の違いによりますが、僕は自分が「いい短歌」だと思った作品を書き留めておくメモ帳を持っています。
それはスマホの中にある物理的なメモ帳でもありますが、ふとしたときに思い出す心のメモ帳でもあります。
スマホのメモ帳には、最近出会った短歌を記録しておくことが多いのですが、心のメモ帳にある短歌は、もう何年も前、まだ学生だったころに出会って忘れられない大切な作品たちです。
たとえば、こんな作品があります。
誰からも愛されないということの自由気ままを誇りつつ咲け(枡野浩一)
人は誰だって愛されたいと思う。けれどこの作者は、愛されないことは自由気ままであり、それを誇りつつ咲きなさいと言う。自分を信じなさいとか、大切にしなさいとか、そういう空虚な声掛けではなく、人に左右されずに自分という自由を生きなさいというメッセージに、高校生の僕は勇気づけられました。
大人になってからも、何か辛いこと、人と違うと責められることがあるたびに、僕は心のメモ帳からこの歌を引っ張り出してくるのです。
皆さんの中には、本当は短歌が(短歌じゃなくても、俳句や詩、小説やエッセイなどの創作)が好きだけど、なかなか周りに言えない、という悩みを抱えている人もいるのではないでしょうか。僕自身がそうでしたから、その気持ちはよくわかります。そんなときは、あくまで一つの手段ではありますが、思い切ってコンテストや賞に応募してみるのはどうでしょう。短歌の世界では「投稿」といいますが、僕もかつては「NHK全国短歌大会」に作品を投稿していました。NHK学園で教えることになったのは偶然ですが、何だか不思議な縁を感じます。
高校生からの投稿も大歓迎です。なんたって短歌は「自由気まま」でいいんです。皆さんの作品が読めるのを、ひとりの歌人として楽しみにしています。

貝澤駿一
1992年横浜市生まれ。NHK学園高等学校教諭・歌人・「かりん」「gekoの会」所属。