【コラム】NHK学園通信講座を支える先生にインタビュー! 教える人

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2019.12.09

テレビでの歯切れのいいアドバイスも大人気。また、カルチャースクールなどでの直接指導にも精力的な野村先生。本日は東京・青山での講義後に、お話をうかがいました。
(このページの水彩画は、すべて野村先生の作品です。)

 

野村重存(のむら しげあり)
画家。 多摩美術大学大学院修了。 NHK学園水彩画講座テキスト『今日から描けるはじめての水彩画』(日本文芸社)執筆。NHK学園市川オープンスクール講師。

 

水彩画は、絵の具を溶いた色水を紙にしみ込ませる画法です。

 

 

▲野村先生の作品。優しく淡い色が美しい。

▲野村先生の作品。優しく淡い色が美しい。

――まずは水彩画の魅力を教えていただけますか?

水彩画の魅力は、油絵の具やアクリル絵の具などに比べてコンパクトな用具で始められます。

小さなチューブの12色セットの絵の具や、極端に言えば三原色の3本の絵の具に筆と紙、水さえあれば誰にでも描ける。手軽に揃えられて、すぐに始められるという意味では大変馴染みやすい画法です。

そして絵の具そのものを塗るという感覚ではなく水に溶いた色水を紙にしみ込ませるように使う画法なんですね。

水彩画は薄めた色水で描いていく。その淡い感じが紙と一体化して透明感が現れた作品になっていきます。それが綺麗で優しげに見える。

 

 

――水彩画の透明感はどうしたらうまく出せるのでしょうか?

一般的に水彩画というと、透明水彩絵の具を意味します。何が透明かっていうと、塗った色が下の色を覆い隠さないということなのです。そのため明るい色を塗ってから暗い(濃い)色を重ねるのが原則になります。逆に濃い色の上に明るい色を重ねると、下の濃い色が隠れないので明るい色の効果が出にくくなります。

たとえば黄色を塗った上に青をのせると、黄色が透けて見えるため、青と黄色で緑に見える。だけど、青く塗った上に黄色を塗って、それを黄色に見せることはできない。

だから極端にいうと、白い部分は紙の白を生かさなきゃいけない。白いところは紙の白を塗り残していくという作業になるわけです。雪山の白とか、光っている部分とか。

白いところは白で塗ればいいんじゃないの?というのが普通ですが、原則的に白絵の具を使わずに紙の白さを生かします。

だけど、発想を逆転して、白いところを塗らなきゃいいんだと考えた場合、要領さえわかってしまえば、時間短縮できる方法なのです。

 

▲白い部分にご注目。

▲白い部分にご注目。

 

――引き算みたいですね。テクニックが習得できれば、描くのもより楽しくなりそうです。

そうですね。
だから、紙選びも非常に重要なポイントになるんですね。そういったところも面白さにつながるのが水彩画です。

また、鉛筆だけで描くときも白い部分は紙の白さを塗り残して生かします。なので水彩絵の具に慣れるまでに、鉛筆だけでのスケッチ、デッサンをするといいですよ、ということもおススメしています。

まずは鉛筆で形を描けるようになって、濃淡明暗が描きわけられるようになると、絵の具でも描きやすくなるでしょう。

 

 

 

個性は無くなりません。描き続けていれば出ますので大丈夫。

 

 

水彩画を始める方には、「まず真似てみることから始めましょう」とお伝えしています。真似ると個性がなくなるんじゃないかと思われる方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。

描き方を知るためには、とにかく好きな絵を真似するのが一番!そして描いていけば自ずと個性は出てきますので、心配いりません。

 

――絵を描くみなさんにとっては朗報ですね!

はじめはうまく描けなくても、好きな絵を真似することで自分の中になかった描き方を追体験できます。それによって、できなかったことができるようになったりする。

大事なことはいずれにしても「ともかくゆっくりやりましょう」とお話ししています。

みなさん早く完成させたい、結果を見たいと、どうしても焦ってしまい早く描こうとするんですね。そうすると、雑な図にしかならないんです。

 

――早く仕上げたい気持ちもわかります・・・。

例えば木一本描く時に、「同じような葉っぱがたくさんあるなあ」と思って、それをてんてんと描き始め、無数の葉っぱがあるので、たくさん描こうとしますね。

するとだんだん手の動きが早くなって手が暴走してしまい、単調なパターン化になってしまう。それが始まった時点で、その木は自然なものではなくなってしまうのです。

だから、手が暴走する前にブレーキをかけましょうと。

手の動きを止めれば一旦リズムが途切れるので、休んだあとは違ったリズムで手が動き単調なパターンになってしまうのを避けられます。なので皆さんには休み休み間合いを取りながら描きましょう、とおすすめしています。

 

――自分の手にブレーキをかける、ですか!

公園の木の一本だってとてつもなく複雑な形をしているわけです。その複雑な形を「正確に写しましょう」じゃなくて、その複雑さが絵に現れることが大事です。

たくさんの葉っぱを描くのはじれったいかもしれませんけど、慌てずにゆっくり描くことで絵が変わってきます。

 

▲木の葉もさまざまな動きを見せます。

▲木の葉もさまざまな動きを見せます。

 

 

ある時を境に急にうまくなる方が多いんです。

 

 

定年後に絵を始めた60〜70代の男性の生徒さんには、最初はなかなか素直にアドバイスを聞いていただけなかったりするわけですけど、その方が描き続けていると、80歳を超えてからびっくりするくらい上手になったりするんです。

僕も経験があるんですけど、論理でわかっていても手がそう動かない。でも時間差で後からわかってきて、「あ、あの時聞いたのはこの話だったのか」とだんだんわかるようになる。いろいろなことを四苦八苦しながらやったいるうちに、ある時ポンとわかってくるのが絵の世界です。

ですから、地方で通信講座を受けているご高齢の方も、何歳から始めても、何も諦めることはないんです。それが、教えている僕の実感です。

 

――絵はいつから始めても、その人なりに上達できるという実例ですね。

 

 

 

絵を描くことは運動と観察の結果でもあるのです。

 

 

――最後に絵を描くことが好きなみなさまに、ぜひアドバイスをお願いします!

描こうとするモチーフを見るとき、目で見たものを正しく描き写すという見方だけではなく、大事なことは見ているモチーフとどうお付き合いするかといった感覚です。

 

一見つるっとしたりんごでも、触ってみればゴツゴツしているじゃないですか。
目に映ったものを正しく描き写すという行為だけでなく、観察して触って、「あ、りんごってこうなんだ」と思いながら描いていく。
その描き方っていうのはこうですよってことを、テキストなどでもお伝えしています。

 

 

これはいいヒントになると思うのですが、木の葉っぱでも、それがどんな形をしているのか、言葉(擬音)で例えてみる。バサバサなのかチラチラなのかヒラヒラなのか。それが自分の絵を見たときに出てくる言葉と似ていれば、結果、描かれた絵はその木と似ている感じになりますよね。

 

さらに、ジェスチャーしてみましょうと。いろんな木々を身振り手振りのジェスチャーで表してみる。例えば針葉樹と広葉樹ではそれぞれの動きは変わりますよね。

 

そのジェスチャーと同じく、動きの違いが筆を通して紙に伝わり描き表されれば針葉樹、広葉樹それぞれの形は似てきます。

 

そして、じっくりものを観察することで、いろいろなものにも興味を見出すことができる。モチーフに対してただ目で見るだけでなく「どうなっているの?」という問いかけをすることでまた世界が違って見えてくる。

 

絵を描くことはいわば観察に基づいた手の動きの結果でもあるのです。

 

★水彩画の特徴★

白を塗り残していく。

薄い色水を重ねていく。

重ねることによって起こるセロファン効果も大事な特徴。

 

(このインタビューは2019年12月のものです。)