歌壇・俳壇を代表する歌人・俳人が一堂に会する、年一回の祭典 第23回 NHK全国短歌俳句大会 結果発表

2022年3月26日(土)・27日(日)
「第23回 NHK全国短歌大会・俳句大会」が開催されました。
感染予防を万全にし、愛好家のみなさまにご来場いただき、
短詩型文芸への愛が会場いっぱいにあふれるあたたかい大会となりました。
1999年(平成11年)からNHKも主催者に加わり、選者と作者、愛好家が場をともにして、
選者から直接講評を聞ける大会として親しまれ、本大会で23回目を迎えました。
今回は、改修工事中のNHKホールに代わって昭和女子大学・人見記念講堂で開催しました。
短歌23,731首、俳句44,080句もの作品を、
最年少は3歳、最高齢は105歳という幅広い世代の皆さまから、
また国内のみならず海外からもご応募をいただきました。
ご応募いただきました皆さまに御礼申し上げます。
大会終了後に上位の作品の紹介を中心とした番組をNHK Eテレにて放送いたします。
NHKとNHK学園では、短歌・俳句の裾野を広げるよう引き続き努めてまいります。

番組の放送予定について(Eテレ)

  • 第23回NHK全国短歌大会 放送日 2022年4月24日
  • 第23回NHK全国俳句大会 放送日 2021年5月1日

大会の模様を編集し、スタジオからお届けします。
※放送内容や放送日時は特別番組などにより変更・休止する場合がございます。ご了承ください。

全国短歌大会 大賞作品全国短歌大会 大賞作品

  • 「色鉛筆塗るのしんどい」デイケアで老母は黒の蜜柑を描く 藤野晴子(京都府) 「色鉛筆塗るのしんどい」デイケアで老母は黒の蜜柑を描く 藤野晴子(京都府)
  • 行間を空けてふうっと息を吐くたぶん相手は息吞むところ 渋谷裕子(宮城県)行間を空けてふうっと息を吐くたぶん相手は息吞むところ 渋谷裕子(宮城県)
  • 気の遠くなるほど空の青い日よ 生まれてはじめて曾祖母になる 木村桂子(山口県)気の遠くなるほど空の青い日よ 生まれてはじめて曾祖母になる 木村桂子(山口県)

全国俳句大会 大賞作品 全国俳句大会 大賞作品

  • 雨雲の行く手や蕎麦の花明り 貝原玲子(広島県) 雨雲の行く手や蕎麦の花明り 貝原玲子(広島県)
  • 人はまだ君の死知らず冬の虹 杉本美佐子(兵庫県)人はまだ君の死知らず冬の虹 杉本美佐子(兵庫県)
  • 一斉に灯し聖樹を驚かす すずきなずな(北海道)一斉に灯し聖樹を驚かす すずきなずな(北海道)

特選者の喜びの声 特選者の喜びの声

結果発表

特選受賞者の皆様に、ご受賞者の作品背景と選者評を伺いました。

短歌大会 入選作品

短歌大会受賞者(選者評・作品背景)

気の遠くなるほど空の青い日よ 
生まれてはじめて曾祖母になる
木村桂子さん

【選者評】生まれてはじめて祖母になるならさしてふしぎはないが、曾祖母である。曾孫の誕生である。ということは相当の「おばあさん」であるが、歌が実に若い。生き生きして、生命力にあふれ、力強い。感じ入った。(小池光)

【選者評】「気の遠くなるほど」は空の青さであり、またこれまでの歳月でもあるだろう。「生まれてはじめて曾祖母になる」という感慨に、無心のよろこびが感じられる。人生にはいつまでも未知があることを教えてくれる歌。(小島ゆかり)

【作品背景】やっと私もひいばあちゃんと呼ばれるようになった。晴れ渡った空を見上げた時、しびれるような喜び、幸福感と緊張感、そして少し不安や畏れの気持ちが一気に溢れ出しました。コロナ禍で度々送られてくる動画に今年の目標の「笑」が叶えられています。

行間を空けてふうっと息を吐く
たぶん相手は息吞むところ
渋谷裕子さん

【選者評】そこにはいったい何が記された(あるいはこれから記される)のだろう。作者が「ふうっと」吐いた息、その息を相手が吞むような、妙な生々しさ。「行間」だけが表現された、独創的な内容とリズムが魅力的である。(小島ゆかり)

【選者評】やっと言えた、言ってしまった…吐く息からは、肩の荷が下りたような印象を受ける。そして「息呑む」には、その言葉が相手に与えるダメージが想像される。行間と息だけで表現された緊張感あふれる言葉のドラマだ。(俵万智)

【作品背景】お手紙や絵葉書を書くのが好きです。突然もらった相手は迷惑でしょうが、そんなことは構わずに送り付けています。何の用事だろうと相手が訝しんでいる様子や、行間を空けていよいよ本題という一瞬の間を想像して、少しにやけている時にできた作品です。でも孫たちからもらう手紙は何度も読み返し、宝物になっています。

「色鉛筆塗るのしんどい」
デイケアで老母は黒の蜜柑を描く
藤野晴子さん

【選者評】「色鉛筆塗るのしんどい」と、黒の鉛筆いっぽんを手に取った母。ささっと輪郭を描くのかと思ったら、黒鉛筆で蜜柑を塗り潰しはじめたのだ。しんどさと生きる意欲が、母の内部でせめぎ合うようで、思わず息を呑んだ。(斉藤斎藤)

【作品背景】昨年の十月の終わりまで、母は週一回、認知症のデイケアに通っていました。そこでは色紙の朝顔を小さく切った簾に貼った飾り、干支の丑の人形、靴下を編んだ敷物など、施設のスタッフに助けられながら作り、持って帰ってきてくれました。ある時、置いた果物の絵を他の皆さんは色鉛筆で色を付けたと聞いていたが、母は鉛筆のデッサンだけの蜜柑を描いて持ち帰りました。私が「色を付けたら良かったのに」と言ったら、母は「腕がしんどいんや」と言いまして、年をとってしんどいんだなあと思いながらも、色があったらもっと素敵な絵になったのに、とちょっと残念な気持ちになりました。

俳句大会 入選作品

俳句大会受賞者(選者評・作品背景)

一斉に灯し聖樹を驚かすすずきなずなさん

【選者評】クリスマスツリーの点灯式に違いない。影のかたまりのような大きな木を囲む人々。ざわめき。かすかな樅の木の香り。合図と共に一斉に点灯された瞬間の歓声と拍手。灯されたとたん、「聖樹」こそが驚き、「聖樹」として完成するという把握が、いかにも新鮮で楽しい。(夏井いつき)

【作品背景】クリスマスツリーに一斉に点灯した瞬間、見ている人々は思わず歓声を上げますが、ツリー自身もまた、突然色とりどりのまばゆい光を放ち始めた己の体にびっくりしているのではないかと思いました。

人はまだ君の死知らず冬の虹杉本美佐子さん

【選者評】一番近くで君の最期を看取った直後、その死を誰彼に伝える前に、たまたま虹を見た。君の死を今、私だけが知っている。ぽっかりと立ち尽くす空白に、雨上がりの町は光り、冬空の虹は淡く薄れる。こんなにも失ったばかりの、張りつめた心が一句に成った。純粋で透明な挽歌。(神野紗希)

【作品背景】長く海外勤務だった夫は、去年の九月、帰任の予定でしたが、その直前亡くなってしまいました。コロナ禍でましてや海外。ごく身近で見送っただけで、暫くは夫と親しくしてくださった方々にもお知らせできませんでした。ある時、まだ誰も夫が亡くなった事を知らないんだなあと改めて認識し、一人で大きな秘密を抱えているような思いがしました。そんな頃に見た小さな薄い虹が心に残りました。

雨雲の行く手や蕎麦の花明り貝原玲子さん

【選者評】空に浮かんだ雨雲がある方角へ進んでいる。その方向には蕎麦の畑が広がり、白い蕎麦の花が一面に咲いている。灰色の雨雲と蕎麦の花明りの明暗の対照が美しい。「行く手」という言葉からは、眼前に雲や空が見える、視界の開けた場所を想像する。蕎麦を産する盆地などであろうか。(岸本尚毅)

【作品背景】句友と計画した美術館行きの当日、広島県北の三次市は台風の進路となっていました。折角なので決行することにし雲の行方を気にしながらの旅でした。山畑の一面を真っ白に染め蕎麦の花が咲いていました。被害もなく無事に帰宅しましたが、台風を押して強行したお蔭で授かった句です。

選者による選評 選者による選評

稲畑汀子先生
ご逝去のお知らせ

2022年2月27日、稲畑汀子先生がご逝去されました。91歳でした。
稲畑先生は高浜虚子創刊の「ホトトギス」名誉主宰として後進の育成にあたられ、また日本伝統俳句協会を設立するなど、熱心に俳句の裾野を広げる活動をなさっていました。
NHK全国俳句大会では、平成2年度から30年間にわたり選者をお務めくださっていたほか、龍太賞では設立より選者を務めてくださるなど、長年にわたりご指導を賜りました。
先生のご指導に感謝するとともに、謹んで哀悼の意を表します。

NHK学園全国俳句大会で飯田龍太先生と談笑する稲畑先生
NHK学園全国俳句大会で飯田龍太先生と談笑する稲畑先生

NHK学園の短歌・俳句講座の創設者にちなんだ15作品1組の「近藤芳美賞」「龍太賞」NHK学園の短歌・俳句講座の創設者にちなんだ15作品1組の「近藤芳美賞」「龍太賞」

近藤 芳美

近藤芳美先生

1983年に「短歌講座」が開講。戦後歌壇をけん引する歌人であった近藤芳美先生(1913~2006)と岡井隆先生(1928〜2020)を中心に指導が始まりました。近藤芳美先生は、短歌愛好家の拡大に努めながら、短歌結社「未来」を主宰し多くの有力な歌人を輩出しました。また現代歌人協会の理事長も務められました。

岡井隆さんについての動画はこちら(公式チャンネル)

飯田 龍太

飯田龍太

NHK学園の「俳句講座」の開講は1981年。当時、父・飯田蛇笏没後に「雲母」主宰を継ぎ、現代俳句の新境地を切り拓く活躍をみせていた飯田龍太先生(1920~2007)を監修者としてスタートしました。飯田龍太先生は、俳句を「普段着の文芸、庶民の文芸である」と語り、俳句の裾野を広げようと、市井の俳句愛好家の指導にも力を注ぎました。

「NHK学園俳句講座開講40周年・創設者
飯田龍太生誕100年」特設ページはこちら

このふたりが短詩型文芸の発展に尽力した偉大な功績を称え、「飯田龍太賞」(現在は「龍太賞」に改称)、「近藤芳美賞」を設けました。いずれも新作15句、15首を1組として応募された中から優れた作品を顕彰するものです。

「入選作品集」のお知らせ 「入選作品集」のお知らせ

  • 第23回 NHK全国短歌大会 入選作品集
  • 第23回 NHK全国俳句大会 入選作品集
  • 第23回 NHK全国俳句大会 龍太賞 入選作品集

全入選・入賞作品は『入選作品集』に掲載しております。
ご希望の方には、短歌・俳句それぞれ一部1,500円(税・送料込み)で販売いたします。
俳句の「龍太賞」部門の入選作品集は1,000円(税・送料込み)で販売いたします。

申込方法

お葉書またはFAXで、①購入希望の作品集名(例:第23回NHK全国短歌大会作品集)②冊数③ご住所④お名前⑤お電話番号をご記入の上、NHK学園教材サービスへお送りください。お電話でも受け付けます。
作品集と合わせて振込用紙をお届けいたしますので、到着後14日以内に代金をお支払いください。

「入選作品集」お申込先

〒186-8001
NHK学園 教材サービス係

電話
042-572-3151(代) 
9:30〜12:00・13:00〜17:30 
土日祝を除く
FAX
042-501-0807(24時間受付)

次回の題と作品募集について 選者による選評

次回の題は「千」です。
自由題とあわせて、「千」の漢字をいれた作品をお待ちしております。
(2022年7月から募集開始予定です)

NHK全国短歌・俳句大会とは

NHK全国短歌俳句大会は1999年、それまで「NHK学園全国俳句大会」「NHK学園全国短歌大会」として運営していた大会を、NHKとNHK学園の共催としてスケールアップして開催するようになったことが始まりです。東京・渋谷のNHKホールで行われた大会には、短歌と俳句の両日で3,000名を超える愛好家の方々が集まる、大規模なイベントとして定着しました。

「特選」に入ると選者と共に舞台に登壇、作品が紹介されインタビューなどが行われます。当日の模様はNHK「Eテレ」にて後日放送されます(ダイジェスト版)。「いつかはNHKホールの舞台へ…」を目標に、日々精進されている方もいらっしゃいます。

※第21回大会の模様(2020年1月開催)