「短歌友の会」オンライン選評座談会を楽しむ
「言いたいことが、うまく一首にならない」。短歌を詠みはじめて数年、そんな手応えのなさに立ち止まっている方は多いのではないでしょうか。
2026年6月、NHK学園「オンライン短歌友の会」の選評座談会では、そんな悩みにそっと効いてくる時間でした。
大会選者としても活躍する江戸雪さん・笹公人さんが、会員のみなさんの作品を一首ずつ読み解いていく60分。聞いていて何より面白いのは、選者お二人が歌を「味わう」その手つきそのものでした。
この記事では、座談会でお二人が実際に語った言葉を引きながら、「作品鑑賞」の楽しさと、そこから見えてくる作歌のヒントをおすそ分けします。
今回の「短歌友の会オンライン選評座談会」について
NHK学園短歌通信講座「短歌友の会」は、年4回・1回5首を提出し、選者の選と誌上発表(作品集『彩歌』掲載)が楽しめるコースです。今回の選評座談会に登壇されたのは、友の会選者の一人で、NHK全国短歌大会でも選をつとめる江戸雪さんと笹公人さん。提出された作品は選者が選歌し、オンラインの選評座談会でその読みどころが語られます。
今回取り上げたのは、2026年『彩歌』春号に掲載された会員のみなさんの作品。恋の歌、子育て、介護、そしてAIやTikTokといった「今」を映した歌まで、実に多彩な一首が並びました。ここからは、座談会で語られた鑑賞の視点を、いくつかのポイントに分けてご紹介します。
(引用はすべて当日の発言・掲載作品からのものです。)
友の会選者が“面白がる”、作品鑑賞の視点
① たった一つの「具体」が、“自分にしか詠めない歌”をつくる
まずはこの一首。亡くなった奥さまを悼む挽歌です。

毎年めぐってくる初夏の空は「何も変わらず」。変わってしまったのは、隣に人がいないこと──。江戸さんが注目したのは、その情景に置かれた「ベル」という具体的なモノでした。
江戸雪:
「この具体を出すっていうところが、やっぱりこういう歌に──今の自分ならではの歌になる、自分しか歌えない歌になるっていうところなのかなって思いました。」
「駐車場で鳴るベル」という、その人だけが立っていた場所の、その人だけが聞いた音。抽象的な「悲しみ」を並べるより、たった一つの具体が、歌をかけがえのない一首に変えていく――。同じことは、子育ての慌ただしさを詠んだ次の歌でも語られました。
吐瀉物を拭いているとき〈鼻セレブ〉差し出す女性も子を抱えてる
にう(『彩歌』2026年春号)
江戸雪:
「ここに〈鼻セレブ〉っていうだけで、ぐっと臨場感が出ていると。」
ただの「ティッシュ」ではなく、あの少し高級な〈鼻セレブ〉。固有名詞ひとつで、見ず知らずの親同士のあいだに生まれる小さな連帯が、ぐっと立ち上がってきます。「うまく言おう」とする前に、その場にあった具体的なモノを一つ、そっと置いてみる。そんなヒントが見えてきます。
② 「ないはずの言葉」を、面白がってみる
辞書には載っていない言葉――造語を、選者はどう見るのでしょうか。犬と猫を対比させたこの歌をめぐって。
なぜだろう猫撫で声は妖しくて犬撫で声はもっと健全
清水美加子(『彩歌』2026年春号)
笹公人:
「犬撫で声」っていう言葉はないと思うんで、造語だと思うんですけどね。
「猫撫で声」はあっても「犬撫で声」はない。その“ないはずの言葉”をあえて置くことで、猫と犬の存在感の違いが立ち上がってくる。笹さんも江戸さんも、その造語のはたらきを楽しんでいました。似た話は、オノマトペをめぐっても出てきます。
君の目にキラキラと光る綺羅が住む 恋する星に目眩を覚え
あんころ(『彩歌』2026年春号)
笹公人:
ここに「キラキラ光る」っていうのは、割とベタなオノマトペだから、「あんまり使っちゃいけない」って言われたりするんです。でも、それでもいいんだっていうね。
「キラキラ」のようなありふれたオノマトペは、しばしば「避けるべき」とされます。でも、避けるのが正解とは限らない――。ルールを一度知ったうえで、それでも使い切る勇気もまた、歌を前に進めるのだと気づかされます。
③ 一語が動き出す──名詞が、動詞に変わる瞬間
言葉のちょっとした“ずらし”が一首を生かすことがあります。会話体で書かれた、こんな一首。
もうこれで思い残しはないという なにいってんの思い残せよ
松根 新(『彩歌』2026年春号)
「思い残しはない」と言う相手に、「なにいってんの、思い残せよ」と返す。名詞の「思い残し」が、命令形の「思い残せ」へと転じるその瞬間を、江戸さんはこう受け止めます。
江戸雪:
「もっともっともっと」って、思いに対しておかわりしてるみたいな感じがあって。会話体っていうのもいいですよね。
「もっと思いを残せ」――それは、まだまだ生きろ、というエールでもあります。笹さんも、この歌の底に流れる力を高く評価していました。
笹公人:
「エールの歌として、力がすごいなと。」
同じ言葉でも、名詞のままか、動詞に転じるかで、歌の温度はまるで変わります。手持ちの一語を少し“動かして”みる。その一手が、平凡になりかけた歌を救うことがあるのです。
④ 一首は、何通りにも読める──ここに鑑賞の醍醐味がある
選評座談会がいちばんスリリングになるのは、お二人の「読み」が交わる瞬間です。指輪をモチーフにした、多行書きのこの一首。

笹さんは、まずこの歌を二通りに読み解きます。
笹公人:
「これは二つぐらい読み取れると思うんですけど。一つは、結婚して幸せかなと思ったら、意外と大変だったり、悩みがあったり、現実は違ったっていうのと。」
結婚生活の現実を見つめた歌か、あるいは闇そのものへの呼びかけか。一首はひとつの答えに閉じません。いっぽう江戸さんは、「慣れてきたことでしょう」という語り口そのものに、ひやりとするものを感じ取ります。
江戸雪:
「慣れてきたことでしょう」とかいう言い方が、ちょっと怖い感じ。呪いをかけているような。
同じ一首から、まったく違う手ざわりの読みが立ち上がる。「正しい一つの解釈」を探すのではなく、幾通りにも読み拓いていく――これこそが、作品を鑑賞することのいちばんの楽しみなのだと、お二人の対話が教えてくれます。
⑤ 暮らしの“いま”が、そのまま歌になる
最後にもう一首。SNSの一場面を詠んだ、とても“今”な歌です。
知らぬ間にTikTokの背景となって飛び交うわたしとあなた
白根あかね(『彩歌』2026年春号)
座談会では、作者ご本人からのコメントも寄せられ、その場でさらに読みがふくらみました。
江戸雪:
「若者が撮ってるTikTokに、自分が後ろに写り込んじゃったってことみたいですよ。むっちゃ面白いですね、それだったら。」
TikTok、迷子ひも、休日診療、そしてAI――座談会には、今の暮らしがそのまま立ち上がる歌がいくつも並びました。特別な題材でなくていい。あなたの毎日の一場面こそ、まだ誰も詠んでいない一首の種になります。
この続きは、次回の選評座談会で(無料ライブ)
ここでご紹介できたのは、60分のうちのほんの一部です。座談会では、キャベツや白菜の収穫、ラッコの親子、介護の日々、AIの詠む短歌をめぐる議論まで、二十を超える作品をお二人がじっくり読み解いています。「選者は一首をどこまで深く読むのか」を体感できる時間です。
そんな選評座談会を、次回もオンラインで、しかも無料でお楽しみいただけます。
ご登録いただければ、どなたでもご視聴・ご参加いただけます。「自分の歌も、こんなふうに読んでもらえたら」――そう感じた方は、ぜひのぞいてみてください。

第28回NHK全国短歌大会の選者、佐伯裕子先生と坂井修一先生が講師を務めます。両先生がそれぞれ気になった8首を選び、「なぜ、この一首にひかれたのか」「どの言葉が印象を生んでいるのか」。選者の対話を通して、言葉の選び方、表現の工夫、作品の伝わり方を具体的に学べます。選評を聞く時間そのものが、次の一首を生み出すヒントになります。
開催概要
日時
2026年9月11日(金)19:00~20:00
出演
坂井修一先生、佐伯裕子先生
参加費
無料
開催方法
オンライン配信(見逃し配信あり)
▶ 【2026年 夏】オンライン短歌友の会 選評会(無料)に申し込む
あなたの一首を、大会へ。
「作品鑑賞」の面白さにふれたら、次はいよいよ、あなたが詠む番です。短歌友の会でおなじみの江戸雪さん・笹公人さんのように、第一線の歌人が選者をつとめる第28回 NHK全国短歌大会が、作品を募集中。今日見つけた「具体を一つ置く」「言葉を少し動かす」というヒントを、そのまま一首に生かしてみませんか。
投稿は2026年11月16日(月)必着。あなたの毎日から生まれた一首が、選者の心に届くのを待っています。