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イベント報告|松村正直&笹公人の短歌のコツスペシャル第二弾 大会おしゃべりナイト!

bvwo5tb18162tewggyidなぜいい歌は「目に飛び込んでくる」のか。選者はどこを見て、何を採るのか。――その本音が、ここにある。

 

 2026512日(火)夜、NHK学園オンライン講座にて「松村正直&笹公人の短歌のコツスペシャル第二弾 大会おしゃべりナイト!」が開催されました。第27NHK全国短歌大会の放送を目前に控えた特別イベントとして、大会選者を務めた歌人・松村正直さんと、大会アンバサダーと当日詠の選をされた笹公人さんが登場。大会当日および事前アンケートで参加者から寄せられた質問のなかから厳選した11問に答えるかたちで、約60分間にわたって対談が行われました。

 「当日はかなり大ざっぱな質問が多くて、どうなるかなとドキドキしながら」と笹さんが苦笑しつつ、「当日詠は集まった歌も多かったし、レベルも高くて面白かった」と松村さんが振り返るように、大会本番の熱気を引き継いだ、活気ある一夜となりました。以下に、対談の要旨をお届けします。

 

 

【取り上げた質問】

選歌の際に心がけていらっしゃることについて、お聞きしたいです。

私は今日初めて母が選ばれたきっかけで短歌に触れました。色々な受け方や見方があると感じました。どんな所を見て応募者の短歌を読んでいますか?

『いい歌は目に飛び込んでくる』とよく言われますが、そうですか?

どうしたら選者になれますか?

連作の題は、どのようにつけるのがよいのでしょうか。

連作の場合、どういったことに気をつけて歌を並べていますか?

主題(または発想)を作るコツを知りたいです。題からイメージをふくらませるのがむずかしいです。

歌がうまくなるには、どうしたらいいですか?

短歌がなかなか上達しません。どういう短歌が良いのか悩んでしまいます。

先生方は、どんな時に短歌を詠まれますか?

初めて短歌を詠んだのは何歳ですか?

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選歌の際に心がけていること

最初の問いは、選者の視点に迫る核心的なテーマでした。

当日詠の選歌笹さん:「いい歌を見逃さない——それに尽きます。NHK全国短歌大会のように選者が複数いると、自分が落としても誰かが拾ってくれるという安心感は少しあります。でもやっぱり、自分が一番いいと思う歌は自分で採りたいという気持ちで、かなりの緊張感を持ってやっています」

松村さん:「大前提はいい歌を落とさないこと。その上で、複数の選者がいる場合は、自分らしさを出していくことも大事にしています。誰が見ても取りそうな歌もあれば、自分じゃなきゃ採らないなという歌もある。その自分ならではの線をどこかに持つことが選歌の面白さでもあります」

笹さんはさらに、「他の選者のお株を取ってはいけない」という言葉も加えました。オカルトやユーモア系の作品は自分が採るべきという使命感があり、それが選歌の個性にもつながっているとのこと。

 

 


応募作品のどこを見ているか

続く質問は、「お母さんが選ばれたことをきっかけに今日初めて短歌に触れた」という参加者からのものでした。

笹さん:「内容も韻律も、すべてを見ています。ただ、大量の歌を一定の時間内に見ていくので、じっくりというよりは、何か引っかかるものがあるか、はっとするような手が止まるものを探している感じです」

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松村さん:「僕が大事にしているのは、歌の中に『その人ならでは』の部分があるかどうかです。ものの見方でも、修辞でも、言葉の選び方でも、素材でもいい。どこか一つでも、その人じゃないとできない部分があると、歌はぐっと強くなります。最大公約数のような、誰が読んでも同じになる歌は、やはり弱い」

 

「いい歌は目に飛び込んでくる」は本当か

短歌界でよく語られるこの言葉について、両者は正直に答えました。

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笹さん:
「そういう時もあります。でも、じっくり読んで良さに気づく場合もあるので、全部が全部そうとは言えない。ただ、パッと見た時の漢字と平仮名のバランスがいい歌は、よく読んでも良い場合が多いのは確かです」

松村さん:「漢字がぎゅっと詰まりすぎている歌は、いい歌になる確率が低いとは感じます。かつての師もよく『歌の方から立ち上がってきて目に入ってくる』とおっしゃっていました。ただ、ぱっと分からなくても、じっくり読むと後からじわじわくるタイプの歌もある。大会の場ではインパクトの強い歌が有利になりやすいですが、地味だけどいい歌もある。その辺は選歌で見逃してしまうこともあるかもしれません」

なお、NHK全国短歌大会では予選と本選の二段階制が採られており、予選では複数人が同じ束の歌を手分けして確認する仕組みになっているとのこと。「同じ人の歌を複数の目で通すようなシステムで、かなり手がかかっている。信頼できると思います」と松村さんは語りました。

 

どうしたら選者になれますか?

少し意外な質問に、二人は率直に答えました。当日詠の発表

笹さん:「選者になりたいと思ったことが正直ないので……。チャンスが巡ってきたという感じです」

松村さん:「選者になっても特にお金が儲かるわけでも、いいことがあるわけでもないので、なぜそんなに選者になりたいのかが正直よく分からない。名誉や立場が欲しいということなら、短歌以外の場所で勝負した方がいいのではと思います。選者になることが先にあるのではなく、歌を作り、文章を書き、歌集を出す——その実績を積んだ結果として選者の依頼が来るのが順番だと思います」

 

連作の題のつけ方

松村さん:「連作の題は、読者が最初に目にするもの。いわば0番目の歌のような役割を果たすことがあります。内容をそのまま表したタイトルは避けた方がいい。たとえば父を詠んだ連作に『父の死』とつけてしまうと、読む前から結末が分かってしまう。連作の中の言葉からタイトルを取ることが89割ですが、読者に余白と余韻を残せるものがいいと思います」

スクリーンショット 2026-05-14 184039笹さん:「私は連作に一度も出てこない単語をタイトルにすることもあります。『念力家族』には『念力』も『家族』も直接入った歌はありませんが、それがその連作の世界観を象徴しているんです。栗木京子さんの第一歌集『水惑星』も、タイトルを決めた後で『水惑星』という言葉を使った歌を後から入れたという話を聞きましたよ。タイトルがその連作の全体の色を決めていくというのはあると思います」

 

連作の歌の並べ方

笹さん:「俵万智さんの『サラダ記念日』を手本にしていた時期があります。物語の流れを持ちながら、場面転換を『匂わせ』の歌で繋いでいく。接続するためだけの歌を作ろうとすると、どうしても説明の歌になってしまう。蛇行しながら、なんとなくの雰囲気で次の場面に移っていく。その技法がすごく勉強になりました」

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松村さん:「同じ15首でも、並べる順番によって読者の印象はがらりと変わります。旅行の連作で家を出るところから帰るまでを律儀に全部入れると単調になってしまう。どこに焦点を絞るか、どこから始めるか——映画の回想シーンのように時間を遡ることだって短歌の連作でできます。小説や映画など、他のジャンルの表現から学べることは意外に多いと思いますよ」

 

主題・発想のつくり方と、題詠について

「題からイメージを膨らませるのが難しい」という声には、両者が自身の創作スタイルを率直に打ち明けました。

題の発表

笹さん:「私は雑誌で20年以上連載していて毎月題を渡されますが、歌ができてから『この感じならこんなコンセプトかな』と後付けで決めることが多い。主題から作るというのは、実はほとんどやっていません」

松村さん:「テーマを先に設定して歌を作ることもできますが、私は歌をたくさん作った後に並べてみて、そこから自然にテーマが浮かび上がってくるというやり方の方が多い。テーマにがんじがらめになると、歌の伸びやかさが失われてしまいます。テーマと直接関係ない歌を一つ入れるだけで、連作に風通しが生まれることもあります」

また、題詠については「難しい題の方が意外といい歌ができる」という興味深い話も出ました。

松村さん:「自由題だと結局自分の好みや偏りの中でしか歌を作らない。たとえば『アゼルバイジャン』なんて、題詠で与えられない限り自分から使うことはまずないですよね。縛りが逆に、普段使わない筋肉を動かしてくれる。難しい題の方が、思いがけない歌が生まれる刺激になるのかもしれません」

 

歌が上手くなるには

多くの人が一度は抱くこの問いに、松村さんは逆に問い返しました。

松村さん:「まず聞きたいのは、あなたは今何をしていますか?ということです。毎日歌集を読んでいますか、毎日一首作っていますか、と。漠然と『どうしたら上手くなれますか』と聞かれると、答えるのが難しくなってしまう。人の歌を上手に読めるようになると自分の歌も上手くなる、そして自分の歌が上手くなるとさらに人の歌を深く読めるようになる。これは車の両輪のようなもので、どちらか一方だけでは回りません」

笹さん:「いろんな人の歌をたくさん読んで、いっぱい書く。それに尽きますね。読むことが、やがて自分の栄養になっていく」

名歌集を書き写すという実践について、「意図を持って盗むつもりでやるのが大事で、ただ修行のように写すだけでは効果が薄い」とも語られました。松村さんが愛読する歌人として小池光さんの名が挙がり、笹さんも同じく小池さんや伊藤一彦さんを挙げました。同世代の作品ばかり読むより、評価の定まった歌集や一世代上の作品を読む方が、自分の歌の幅が広がるとのこと。

 

「上達しない」と感じる時

松村さん:「短歌を30年やってきて、上達したと感じた瞬間は12回ほどです。基本は現状維持が続いて、時々1段上がる——階段の水平の面がひたすら長い世界だと思った方がいい。右肩上がりで上達するイメージでやっているから、上がらないとイライラしてしまう。上達しないのが普通、それが当たり前と思えるかどうかが大事です」

笹さんはここで、先週起きた自身の出来事を打ち明けました。背中の痛みから検査を受けたところ、腎臓に腫瘍の疑いがあると告げられ、CTスキャンまでの一週間を不安のなかで過ごした。しかし結果は誤診で、腫瘍は確認されなかった——そのエピソードを連作にしたというのです。

笹さん:「その1週間はつらかったけど、作品になった。短歌ってそういうものがあるんですよね。何か不幸があっても、それが作品になって報われるというか。ちょっとポジティブになれる」

松村さん:「上手さだけに価値があるのではなく、短歌を書き続けること自体が大事。歌によって救われたり、慰められたりという効用もある。上手さだけで考えなくていいのかなと思います」

 

短歌を詠む時と、始めたきっかけ

「どんな時に短歌を詠むか」という問いには、二人の創作スタイルの違いが浮かび上がりました。

笹さん:「締め切りに迫られた時がほとんどです。お風呂に入っている時にふっと浮かぶことはありますが、昔は四六時中浮かんでいたのに、最近は絞り出さないと出てこない感じがします」

松村さん:「机に向かって作ることはほとんどなくて、外を歩いている時や電車の移動中に浮かぶことが多い。メモに書いておいて、推敲は机でやります。永田和宏さんも『歌おうかと迷ったら、まずは歩くことを大切に。身体のリズムの中から意識していなかった風景や心情がふっと立ち上がってくる』と書いていました。短歌は決して机の上だけで作るものではないということは、体感的にもそう思います」

最後は、二人が短歌と出会ったきっかけについての問いで締めくくられました。

笹さん:17歳の時、書店で寺山修司の歌集を立ち読みして。面白いと思って始めました。寺山修司のようにフィクションで作っている人が短歌界にたくさんいると思っていたら、実際はほとんどいなかったのに驚きました(笑)」

松村さん:26歳の頃、函館に住んでいた時に石川啄木と出会いました。啄木の歌を読んで『これぐらいなら自分にも作れそうだ』と思わせてくれた。あの場所に住んでいなかったら、短歌とは無縁だったと思います。小説家を目指していましたが、短歌の方が自分に合っていたようです」

そして最後に、こんな言葉が贈られました。スクリーンショット 2026-05-14 184939

松村さん:30歳でも、50歳でも、出会った時がその人のスタートです。早く出会ったからいい歌ができるとは限らない。何歳からでも出会い直せるのが、短歌のいいところだと思います」

おわりに

笑いを交えながらも実質的な学びが凝縮された約60分。選歌の視点、連作の構成法、上達の本質、そして短歌が人生に果たす役割——それぞれの問いに対して、松村さんと笹さんは飾らない言葉で答え続けました。

今回の内容はアーカイブでもご覧いただけます。第27NHK全国短歌大会への応募を経験された方も、これから短歌を始めてみたいという方も、ぜひ一度ご視聴ください。第28回大会に向けた新たな一歩のヒントが、きっと見つかるはずです。

今回の対談で、ご自身の作歌に取り入れたいと感じたヒントはありましたか?ぜひコメントやSNSでお聞かせください。

お見逃した方は、アーカイブ視聴(無料)ができます。

 

📌 アーカイブ視聴はこちら https://college.coeteco.jp/live/qz4cg3q6

 

 

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