歌人でNHK学園短歌友の会選者の松村正直先生による好評連載「秀歌を読もう」第7弾をお届けします。
秀歌を読もう(7)
ニコライの塔のかけらにわれ倚りて見る東京の焦土の色
与謝野晶子『瑠璃光』

今からちょうど百年前の一九二三(大正12)年九月一日、関東大震災が起きた。死者・行方不明者約十万五千人という大惨事である。神田駿河台にあるニコライ堂(東京復活大聖堂)も、鐘楼や天井ドームが崩壊する被害に遭った。
その廃墟に来て晶子は焼け野原になった東京の街を見渡す。駿河台はその名の通り高台になっているのだ。「塔のかけらにわれ倚りて」に、茫然自失とした様子が表れている。
同じ駿河台にあった晶子の勤務先の文化学院も焼け、十年以上にわたって書き溜めてきた「源氏物語講義」の原稿も失われた。「大切な原稿を土深く埋めておけばよかつた」と記すほど晶子の嘆きは深いものであった。
NHK学園短歌講座講師 松村正直
(NHK学園短歌講座機関誌『短歌春秋』168号/2023年10月発行 より)
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