歌人でNHK学園短歌友の会選者の松村正直先生による好評連載「秀歌を読もう」第6弾をお届けします。
秀歌を読もう(6)
寒鯉のぢつとゐるその頭(づ)のなかに炎をあげてゐる本能寺
渡辺松男『きなげつの魚』

冬の池にじっと動かないままの鯉。その脳裏で本能寺が燃えているというのだ。突拍子もない飛躍の大きさにまずは驚かされる。鯉の静かな姿と激しく燃える炎の動き、池の水の冷たさと火の熱さの対比を感じる。
目の前の鯉と歴史的な事件である本能寺の変が、時空を超えて結び付く。理屈で考えるよりも、イメージの鮮やかさを味わうべきだろう。「ぢ」から「づ」、「ほのお」から「ほんのう」へ音がつながり、音読すると心地よい。
個性的な発想や文体で独自の世界を切り拓いている作者。見たまま、ありのままといった写実的な歌だけでなく、時にはこんなふうに自由で豊かな世界も味わってみたい。
NHK学園短歌講座講師 松村正直
(NHK学園短歌講座機関誌『短歌春秋』167号/2023年7月発行 より)
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