「暮らしと言の葉」コラム第4弾です。アクティブで知的好奇心いっぱいの美衣さん。今回の言葉との出会いは…
トッポとレオレオ
今年の夏はトッポが少なかった。
トッポ、とはうす緑色の羽の小指の爪くらいの大きさの虫のこと。トッポは夏になると山が近い我が家の周りでよく見かける。幼虫は白い綿みたいで、網戸に白いふわふわが付くのがちょっと困る。
「この虫、なんて名前だろう?」と言ったら、保育園に通っていた子が
「これ、トッポだよ」と平然と言うので、以来二十年近く、その虫は我が家でトッポと呼ばれ続けている。トッポといっても友達に通じない、と下の子が言うので調べたら、どうやらこの虫はアオバハゴロモというらしい。トッポという別名はどうやら我が家だけで通用する言葉だったようだ。

高校生の時、タイのバンコクでホームステイした。お世話になっていた家の女の子と出かけて、後でお母さんと落ち合う約束になっていた。ところが女の子が誰かと電話を始めてなかなか終わらない。約束の時間に間に合わなくなる、と思って英語でもう行かなきゃ、とか時間だからとかいうのだけど(英語は通じるはずなのに)なかなか電話を切らない。
とうとうわたしは「レオレオ!」と言った。その前日、お母さんがその子に出かける前にそう言って急かしていたのを思い出したから。するとハッとしてすぐに電話を切ってくれた。たった四音のレオレオで。
このトッポとレオレオを思い出す時、わたしは広さと深さだけではない言葉の奥行きみたいなものを感じて不思議な気持ちになる。
一千年ののちに生きている杉へ言葉をひとつあずかってください
東直子『十階』
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