NHK学園の短歌通信講座の学習を支える、機関誌『短歌春秋』には短歌づくりに役立つ特集をはじめ、一諸に学んでいる受講者の作品やお声を掲載しています。
今回は『短歌春秋』の歌の鑑賞記事「秀歌を読もう」をご紹介します。NHK学園の短歌講座の講師などが選んだ秀歌1首を取り上げ、作者や作品の背景などを踏まえて、その歌の魅力を解説しています。
今回は、伊藤左千夫と北原白秋の1首をご紹介します。
(取り上げる作品は、2011年11月~2023年4月に発行の短歌講座機関誌『短歌春秋』「秀歌を読もう」より抜粋した作品・講評になります。)
伊藤左千夫の一首

伊藤左千夫は小説「野菊の墓」の作者としてひろく知られています。千葉県成東の裕福な農家に生まれ、長じて牛乳搾取業(牛飼い)となりました。正岡子規に深く傾倒して長塚節とともに島木赤彦、斎藤茂吉らに大きな影響を与えました。短歌、小説など多くの作品を残しましたがその中でも特に
「牛飼が歌よむ時に世のなかのあらたしき歌大いにおこる」
が有名です。
豊かな情に満ちた、生活に根ざした歌が残されています。十三人の子を得ましたが、その多くは夭折し、子を失った悲しの歌が多くあります。(佐藤南壬子)
北原白秋の一首

今年(二〇一二年)は、北原白秋没後七十周年にあたります。掲出歌は『雲母集』巻頭の一連「新生」の中の歌。「大きなる」「あらはれて」という表現が、人間から遊離した「手」だけをクローズアップし、「卵をつかむ」という動作に焦点を絞る時、日常を超えた不思議な空間が生まれます。「手」や「卵」が、この世の秩序から切り離されて、独立して存在するように感じられるのです。
隣家の夫人俊子との結婚、三浦三崎への移住は、『桐の花』に見られる繊細で美意識の強い白秋の歌風を大きく変化させ、このようなシュールな歌や、命を言
こと祝ほぐ骨太の歌を生み出しました。(松尾祥子)