コラム|NHK学園 生涯学習通信講座

WEBで読む『短歌春秋』精選/作歌のヒント「連作を作りましょう」ー作品のまとめ方

作成者: Admin|2025.12.25

 

 NHK学園の短歌通信講座の学習を支える、機関誌『短歌春秋』には短歌づくりに役立つ特集をはじめ、一諸に学んでいる受講者の作品やお声を掲載しています。

 今回は『短歌春秋』の作歌に役立つ「作家のヒント」をご紹介します。NHK学園の短歌講座の講師が解説しています。

 テーマは「連作」。連作とは、独自の世界観やテーマを深く表現するための方法であり、情景の広がりやストーリー性など、1首だけでは生み出しにくい魅力があります。2023年10月発行の短歌講座機関誌『短歌春秋』に掲載された、中川佐和子先生が執筆の「作歌のヒント」にて解説しています。

 連作づくりに挑戦してみてはいかがでしょうか?

連作を作りましょうー作品のまとめ方

 連作を作りませんか。

 連作というのは、テーマを意識して、数首、あるいは十首以上、もっと多く詠んだまとまりをもった作品群です。懐かしい故郷の思い出や旅を詠むのも連作と言えるでしょう。そして、時事的なことを詠むのに、ひとつの例として言えば、その事柄の時間の経過などを考えつつ歌を作って、一連としてのまとまりがいいように歌を並べます。
 連作の作り方はさまざまです。このように作らないといけないという決まりはないと考えていいでしょう。連作は、一首を作るだけでは得られなかった、作品の背景や心の動きをさらに明確に伝えることができます。


 それでは、川野里子歌集『ウォーターリリー』より歌をあげましょう。

歌集名の「ウォーターリリー」は睡蓮のことです。宇宙から歌がはじまっているこの一連七首の題は「イオンエンジン」です。とても興味をひく題です。


 「はやぶさ2」は小惑星探査機で、六首目に出てくる地球近傍の「小惑星リュウグウ」への着地およびサンプルリターンを行いました。二首目では、宇宙の遥かかなたの「二億キロ」離れた世界を想像しています。「二億キロ」というのは「亡き人」のように遠い世界だというのです。「はやぶさ2」は、地球帰還後にカプセルを分離して、またあらたな宇宙への旅に飛び立って、そしてまた帰還するということです。人間はそのような孤独なさびしい旅を「宇宙船」にさせると哀しみをこめています。三首目では、さくらが散るこの地上と宇宙船を対比させています。散るさくらが映像化されていて、別れを告げるかのようです。一、二、三首目と展開していき、四首目に「イオンエンジン」が出てきます。

「イオンエンジン」は、電気推進とよばれる方式を採用したロケットエンジンの一種ということで、結句の「みづからのため」も擬人化された表現といえるでしょう。五首目に「歯ブラシ」が出てきます。広大な宇宙から作者の日常に引き戻されます。六首目は、「小惑星リュウグウ」のような暗い星が自らの中に浮くというように、自分に引き付けています。不思議な感覚です。七首目、自らの「パソコン」を開けば、宇宙の世界とふたたび出合うことが出来そうです。宇宙から日常を詠んで、大きなスケールの一連の作品です。

 

 

 さて、それでは次に歌の並べ方を考えましょう。一連にどの歌を最初に置いて、次のどの作品をつなげて展開していけばいいのかということです。つまり、作った歌の中からどのように並べるのかということです。歌を並べるというのは、一連の構成ということです。時間の流れ、意識の流れなど読者につながるようにします。連作を作ろうと作者が目論んでいるのかどうかということは別にして、まとめて作品を並べると、読者は一連として読むのは自然でしょう。

 そして、この一連が、いかにして自分の伝えたいところに近づくかです。連作では、すべてに力が入った歌を並べるというわけではなく、その中にはこの一連の背景がわかる歌がまじる場合もあります。一つのテーマだけでなく、それより多いテーマが入ってきてかまわないのです。例えば、季節の移ろいをさまざまに描写して日々を詠む、あるいはかつての仕事を回想しながらそのなかに故郷や家族のことを詠んでもいいわけです。自分や家族の病気のことや、かつての戦争の体験だけを詠む場合もありますが、それだけでなく平明な歌をまじえて、場面の転換をはかるというのもひとつの案です。

 それでは、吉川宏志歌集『雪の偶然』より歌をあげましょう。

この一連六首の題は「比叡山 本覚院」です。
 京都に在住の作者が、比叡山の本覚院を訪れた折の六首です。一首目、三首目、五首目に、同じくこの地を訪れた若山牧水を思って「牧水」という名を歌に入れて詠んでいるのです。この比叡山の「山道」「泊まりし寺」「酒器」に、しみじみと牧水の歌の世界を作者は感じたのでしょう。そして「夕焼けのからみつきたる木」「うち湿りクヌギ落ち葉の重なれる山襞」「渡り廊下は雨に腐りぬ」「石の仏」というように、歌う対象をよく見て、移動につれて視線を移していきます。

 

 連作の作り方は、言葉そのものを題材として言葉遊びの要素を入れることもあり、またユーモアをまじえるのも広がりがでますし、さらに多様な表現方法を取り入れたりしています。そうはい
うものの、題材をよく観察して表現をいかし、あるいは感覚的な把握でも、作者自身のとらえ方のリアルな感じというのは大切です。そして、連作ということであっても、一首を取り出したとき
に、出来るだけ歌の意味がわかるように作ることは必要でしょう。難しいと考えずに、どうぞ挑戦してみてください。